彼女はエリート外交官の求愛から逃れられない
「ごめん、でも諦められない。琴乃を他の男に渡すくらいなら何でもできる」

「そんな人……」
 
「メールに書いてあった頼れる人は佐田君の他にもいるのか?」

「そんな言い方やめてください」

「相変わらず、琴乃は嘘が下手だな」

 口調の割には彼の眼は優しかった。

「迎えに来たんだ、琴乃。お母さんに謝罪して僕の本気を知ってもらう。琴乃とは三年前から結婚前提でつきあっていたんだからね」

「絶対無理よ。お母さんは許さないし、私も……」

「ねえ、琴乃。帰国したら逃げないとあのときも約束しただろう?状況は変わったけど、僕は向き合うつもりでいる」

 ぎゅっと私を握る手に力が入った。確かにそう約束していた。そのつもりだった。あの記事が出るまでは……。

「でもあの記事でお母さんは玲さんのこと怒ってる」

「でも誤解なんだからそれを解く必要がある。お母さんの主治医の先生を紹介してほしい。やり方を相談したいんだ」

 驚いた。本気なんだとわかった。

 確かに先生に相談するのが一番いいと思う。記事のことで発作が起きたことも先生は知っている。

「玲さん……」

 頬を自然と涙が伝った。彼は私をそっと抱きしめた。

「琴乃、僕の気持ちは変わらない。君が好きだ。琴乃は?」

「……」

 私は答えてはいけない気がした。今のお母さんを思うと、彼とやり直すのは難しい。

 彼は泣いたまま何も言わない私の手を握り、荷物を持って外に出た。

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