彼女はエリート外交官の求愛から逃れられない
 私も頻繁に様子を見に行くが、弦也の彼女が気を遣ってくれている。

 いずれ私が彼と海外へ行くと思っているからだ。

 彼は私の寮の近くに越してきていた。結局、彼の部屋に連れ込まれることが多くなり、交際を認められてから同棲に踏み切った。

 そろそろお母さんに許しをもらいにふたりでお願いにいくつもりだった。

 * * *

「ただいま、琴乃」

「おかえりなさい、玲さん」

 玲さんが帰ってきた。今日は正装だ。右手で黒の蝶ネクタイを緩めている。色気が半端ない。

 玄関に出た私を軽く抱き寄せ、頬にキスをしてすぐにバスルームへまっすぐに向かった。

 女性ものの香水の香りがした。嫌な予感が当たった。考えただけで辛かった。

 彼は今日、つき合いのある芸能事務所の記念パーティーに呼ばれた。

 その芸能事務所は日奈さんの事務所だが、彼女が結婚してからというもの、他の女優さん達が玲さんにちょっかいをかけるようになっていたらしく、日奈さんから事前に話を聞いていた。

 玲さんは高身長でエリートのイケメン。未婚だということは皆知っている。モテないはずがない。

 日奈さんとのことは終わったことになっているし、あの業界の人は駆け引き上手で皆美人。

 彼が心配なら一緒に来た方がいいわよと私にも招待状を準備してくれた。

 ところが、今日はどうしても行かれなかった。後期が始まったばかりで、授業が遅くまであった。

 一人で行った彼が女優さん達に囲まれていたのはあの残り香からすぐに想像がついた。

 わかっていても我慢できずイライラしてしまった。

 頭を拭きながら出てきた彼は、濡れて下ろした前髪から光る眼で私を見た。そしてふっと笑った。

「ほっぺたが膨らんでる。目が三角。怒ってるな?」

「……」

 私は黙って彼を見た。
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