彼女はエリート外交官の求愛から逃れられない
『返事がないから心配で眠れない。ねえ、危ないところに行っていない?ひとりで大丈夫なの?』

『大丈夫よ。ウインブルドンへ行って来たわ。コートツアーに参加したの。とても楽しかった』

 明日の留美ちゃんの結婚式はガーデンスタイル。おそらく返信できないことが多くなる。

 何度も連絡してきてもおそらく結婚式だし返事が出来ないと伝えた。

 結婚パーティーが終わったら、ウエディング写真を転送するから楽しみに待っていてと付け加えることも忘れない。

 お母さんの病気はなるべく不安を取り除き、楽しいことを考えさせる必要がある。

「これでよし、と。明日の準備をしておこう」

 スーツケースから明日履いていく予定の靴やバッグ、アクセサリーなどを出した。

 お気に入りのライムグリーンのドレスはすでにチェストにかけてある。

「それにしても、あの人と再会するなんて、こんな偶然びっくり……よく見ると恐ろしくイケメンだったのね」

 あのときは顔がよく見えなかったのだ。背中に庇われていて、顔は本部長に向いていた。

 私はベッドにひっくり返ってもらった名刺をもう一度見た。こんな名刺初めて見た。

 外交官なんてすごい……いくら英語を勉強しても、私には到底なれないだろう。

 あさって一緒に観光できたら、きっといろんな現地のことを教えてくれるかもしれない。楽しみだった。

 彼が庇ってくれた時の姿がフラッシュバックした。二度目だ。

「助けられてばっかりだから、何かお礼にごちそうしようかな」

 私は名刺を財布にしまった。急いでシャワーを浴びる準備をした。
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