彼女はエリート外交官の求愛から逃れられない
 ウキウキとしたその声を聞いて、確信犯だとわかった。やっぱり……以前も似たことがあったのだ。防衛策が必要かもしれない。

「……わかりました」

「タクシーのほうが速いからそっちで来てね。会場前のソファで待っているから、急いでね」

「はい」

 フロアに戻ると招待状を手にしているのを見た部長は声をかけてきた。

「蔵原さん。どうしたの?」

「本部長が招待状を忘れて、届けてほしいと連絡が来ました」

「ああ……くれぐれも気をつけて」

「はい。行ってきます」

 私はビルを出ると、時計を見た。開始予定の時間まであと二十分。

 急いでタクシーを捕まえると開催予定のホテルへ向かった。夕方で車が多くなっていたせいで少し渋滞して、着いた時にはすでに数分前だった。

 会場前のロビーの奥にソファがあり、そこで本部長がゆうゆうと煙草を吸っていた。ほとんどの人が中に入っていくところだった。

 私に気づいたのか、立ち上がりにっこりと笑った。怖い。

「遅かったね。道が混んでた?」

「そうです。遅くなりすみません」

 私は招待状を出して、本部長に向けた。すると、招待状ではなく、招待状を掴んでいる私の手を本部長が握った。私はびっくりして手を引いた。

 しかし、彼の手がぎゅっと私の手を握って離さない。
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