彼女はエリート外交官の求愛から逃れられない
「この格好で行くところは限られるけど、蔵原さんが行きたいところってある?」

「歩き回るところは無理だから座っていられるところがいいです」

「なるほど。明日はどういう予定?」

「最終日なのでお土産を買いたいです」

「ロンドンは初めて?」

「実は本当に小さい時に数年住んでいたことがあります。亡くなった父について家族でいたんです。でもあんまり記憶がないんです。恥ずかしながら英語もその程度なんですよ」

「つまり、大人になってゆっくり見るのは初めてなんだね?」

「はい。それより、藤堂さんは明日もお休みなんですか?」

「僕は昨日から一週間がお休みだからね。あさっての夕方からはこっちに日本から知り合いが来るからそれ以降は予定が入ってるんだ」

「そうだったんですね。他に予定はないんですか?」

「ウインブルドンとこの辺を歩き回る予定だった。あとは買い物でもして、少し家族に贈り物をしようかと思っていたんだ。母の誕生日が近いんでね。お土産選びの時に母の分も選んでもらえるかな?女性の目線は大事だからね」

「もちろんです。じゃあ、明日は一緒に観光してくれるんですか?」

「いいよ。ボディガードだからね」

「そうでした。今までのお礼にランチくらいは私が出しますよ。それに藤堂さんといれば英語の心配は皆無ですもの、私は楽なんです」

「料金代わりに僕が行きたいところにも付き合ってもらう。女性連れでしか行かれないような場所へ一緒に行ってもらおうかな。恋人のふりでもして……」

「どこですか、それ?」

「ロンドンアイって知ってる?数年前にできた大きな観覧車だ。ジュビリー庭園の横にある。テムズ川沿いだよ」

「あれ、ロンドンアイっていうんですね。夜にキラキラしてますよね」

「明日の夕方から一緒に乗ろう。ロンドンが一望できるらしいよ」

 彼はタクシーに私を乗せると、ウエストエンドへと言った。

「ウエストエンドということはこれから観劇ですか?」

「そう。夕方からのイブニングチケットがある。選んで入ろう。それなら座っていられるだろう」

 その後、彼と『オペラ座の怪人』を飛び込みで観た。とても素晴らしくて興奮した。藤堂さんはそんな私を見て嬉しそうだった。

 二人とも正装していたし、まるで夢のような時間だった。素敵な男性とデートしている錯覚におちた。気づくと私は素敵な彼の横顔をそっと見つめてしまっていた。

 見終わってからピカデリーサーカス近くで軽く食事をした。ピカデリー広場は遅い時間にも関わらず、広場の噴水とエロス像の周りの階段に人が大勢座っているのがタクシーからもよく見えた。彼は今日も私をホテルまで送り帰って行った。
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