彼女はエリート外交官の求愛から逃れられない
「リバティ柄という小さな花柄のデザインが好きなんです。その生地で作ったワンピースやブラウス、スカーフやポーチ、バッグや小物とか売ってるんです。そこそこのお値段ですけど、もし藤堂さんが気に入ればお母様のプレゼントにしても悪くないと思います」

「へえ、それは良さそうだな。母にはそれなの値段のものがいい。僕も買えるかな?」

「外交官様は買えるんじゃないでしょうか?私は見るだけでもいいんです」

「せっかく来たのに寂しいことを言うなよ。さあ、とにかく見に行こう」

 デパートはすぐに見つかった。遠くからでもわかる特徴的な建物。チューダー様式で有名なのだ。

 外観を見るだけでもいいかと思っていたが、想像以上に素敵だった。観光地じゃないのに、つい写真を撮った。

「これは、なかなかすごいな」

「ええ、素敵ですよね、来て良かった」

 ふたりで中に入り、お母様のプレゼントを探した。彼と話し合いながら、好きな色などを聞いてポーチとバッグをセットにしてもらった。

「確かにこの濃紺もいいですね。私はこの優しい黄色が好き」

「これも確かにいいね。蔵原さんは買わなくていいの?」

「私はこれがいいです」

 紅茶ポットカバーを買った。あと、いくつかの生地の切れ端をまとめて買った。パッチワークにしてもいい。

「手芸も好きなの?」

「好きなだけで得意ではありません。自分のものなら適当に作りますけど、人にあげられるものは無理です。その程度です」

「君は趣味が多彩だな。今度は一緒に美術館へ行こう」

「今度って、私明日帰りますし……無理ですよ」

 彼は離れていた私の手を彼はサッと握った。そして早口でつぶやいた。

「またどこかで会えばいいだろう。日本でもいいんだし、帰国した時とかどうかな」

「え?」

「さあ、時間がない。行こう」

 彼に引きずられてロンドンアイへ向かった。

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