彼女はエリート外交官の求愛から逃れられない
「お金は払わせないから……」

「え?」

「払うまで今日は帰らないんだろう?そうすればいい。今日は帰さないからね」

 彼はそういうと、私を抱きしめたままゴンドラが下に降りるまで離してくれなかった。

 ゴンドラを降りるとタクシーに乗せられた。そうして、そのまま彼のアパルトマンへ連れて行かれた。

 * * *

「あ、あ、玲さん……待って……」

 部屋へ入るとお姫様抱っこをされて、そのままベッドへ運ばれた。そっとベッドへ私を下ろす。

 部屋の窓から月明かり。彼の顔が見えた。キスする前の顔。

「君の僕を見る目を見て、両想いかと思っていたんだけど違う?琴乃は誰かつきあっている相手がいる?僕はそいつと戦っても君が欲しいんだ」

 私はその言葉に驚いて彼を見た。好きだと言われて本当に嬉しかった。

 でも彼こそ誰かいるんじゃないだろうか?

 私は黙って彼を見た。

 彼は私の様子が変わったのを見て、ひとつ外していたブラウスのボタンを優しく閉めてくれた。

 そして私の横に座った。

「琴乃教えてほしい。僕は君が好きだ。このまま君と別れたくない。君が欲しいんだ。次に会うまで我慢できない」

 彼は私の手の上に自分の手を重ねた。私はそれを見て、彼の顔を見た。

 玲さんが好き……彼にもわかるくらい私の言動に出ていたんだろう。だから、求められて嬉しい。

 私のはじめてを今日ここで捧げても構わない。この部屋へ連れてこられて逃げなかったのは覚悟していたからだ。

 でもどうしても気になる。思い切って確認した。

「明日来る人は女性ですよね?特別な人じゃないんですか?」

 彼の動きが止まった。目を見開いた。驚いている。やはりそうなのね。

「やっぱりそうなんですね。私、そういう人は……」

「琴乃、勘違いしないでくれ。僕は今フリーだ」
< 35 / 131 >

この作品をシェア

pagetop