彼女はエリート外交官の求愛から逃れられない
 * * *

 チェックアウトぎりぎりに私のホテルへ戻り、空港へ急いだ。
 
 玲さんは私の荷物を預けると、空港内の有名宝飾店へ私を連れて行った。

「今日は急いでいるから、店頭にあるものでサイズが合うものを……値段は気にしないでいいから好きなものを選んでほしい。デザインとか君の希望に合わせたものはまた買ってあげるから。今回は虫よけのための一時的なものだ」

 サイズがぴったりの指輪はあった。でも高価だ。私が断ると、彼は無理やり買ってしまった。

 呆気に取られている私をしり目に、その指輪を私の左手をとり、あろうことか薬指にはめようとした。

「この先誰にも琴乃を渡す気はないから。僕の覚悟を知ってほしい」

「玲さん……」

「もちろん、その時がきたらきちんと正式な申し入れはするよ。それ用の指輪も用意する。でも、これは僕の最初の誓いの指輪だ」

 彼は私の手を持ち上げてそこへキスをした。店員は日本語だったので意味はわからないだろうが、周りを見るとにやにやしている。恥ずかしくて隠れたくなった。

 搭乗口前で彼は私をきつく抱きしめ、結局腕を引いて深いキスをされた。

 玲さんはイギリス人になったようだった。だって、日本人が持つ羞恥心はきれいさっぱり見当たらなかった。人目を全く気にせずこんなキスしてる人、見たことがない。

「あ、玲さん……あ……んう……」

 がくん、と膝が折れた。彼の胸に倒れそう。そっと唇を離した彼は、私の唇を指でなぞると名残惜しそうにその指をなめた。

 恥ずかしい。真っ赤になった。彼は私の顔を両手で挟み、頭をつけた。

「琴乃、毎日連絡するよ。年末は必ず会いに行く」

「はい。玲さんも身体に気をつけて下さい」

 彼の嵐に巻き込まれ、私はブレーキを壊されてしまった。もう後戻りできないくらい、彼でいっぱいだった。

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