彼女はエリート外交官の求愛から逃れられない
 しばらくして、お母さんが目を覚ました。

「お母さん、大丈夫?」

「琴乃?琴乃なのね、ああ、よかった……夢じゃないのよね?」

 お母さんは手を伸ばしてきたので、私は安心させるようにぎゅっと手を握った。

「うん、私よ。心配かけてごめんなさい。私は無事に戻ったから安心して」

「……」

 お母さんは私の両手を握ったままじいっと見つめている。私は手を離すと携帯の写真を見せた。

「この写真を見て。留美ちゃんの結婚式とても素敵だったのよ。古いお城のお庭に皆を集めてパーティーだったの。おじさんとおばさんも今度日本に来たらお母さんと会いたいって話していたわよ」

「……もう会わなくていい」

「お母さん!」

「会うと思いだす。琴乃が行くのももう嫌よ。こんな思いは二度としたくないの」

 かたくなな様子を見て、あちらのことは言わないほうがいいと思った。

「お母さんお腹すいてない?何か作るね」

「琴乃」

「なに?」

「……ううん、なんでもない……」

「じゃあ、少し休んでいて。ご飯できたら持ってくるね」

 あっという間に日常に戻った。玲さんとのことは遠い夢の出来事に思えた。彼との交際をお母さんが許してくれるとは到底思えなかった。
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