彼女はエリート外交官の求愛から逃れられない
 * * *

 妹の里香から突然電話が来た。

「お兄ちゃん、日奈さんとやり直すんでしょ?」

「何を言ってるんだ、そんなわけないだろう。まさか、日奈が里香に何か言って来たのか?」

「うん。すごい女優さんになったのに相変わらず優しくて、とっても嬉しかったー。親友の真子につい自慢しちゃった」

「馬鹿、余計なことを言うな」

「大丈夫、口止めしてあるから。心配しないで」

 昨日、会ったとたんに日奈は昔に戻ったかのように僕の腕を取り、身体を寄せてきた。彼女を張っている芸能記者がどこにいるかわからない。僕は彼女を叱った。

 日奈は帰り際、僕とよりを戻さないかとまた話してきた。彼女が国際文化親善大使になり、仕事で会うことが多くなった。話していると昔を思い出すのは確かだが、僕にその気はない。

 僕には今交際している彼女がいるのでと日奈にははっきり断った。琴乃が一般人だと知るや否や、自分以上に僕の為になる相手はいないと言った。

 今の上司である野原参事官が日奈をお気に入りで、応援すると言ってくれたと得意げに話した。ぞっとした。昔の彼女ならそんなことは言わなかった。彼女は僕の知っている日奈とはもう違っていた。

 日奈はうちの家族も知っている。彼女がデビューしたとき、一番騒いでいたのは妹の里香だった。

 あれから里香は彼女が自分の姉になるかもしれないと周りに吹聴していた。別れたのも事務所のせいだと日奈から聞いていて、いずれ元のさやに戻ると思い込んでいる節があった。

「何を言ってるんだ。日奈とはずっと前に別れてる。よりを戻す気は全くない。あいつの言うことを信じるな」

「ねえ、お兄ちゃんに彼女が出来たって言うのも嘘でしょ。日奈さんにばれてたよ。お兄ちゃんがフリーでいるのも、日奈さんを待っていたからでしょ」

「……それも違う」

 日奈からその話を昨日聞かされて、とんでもない話だと思った。少なくとも両親はわかってくれていると思う。そんなこと信じているのは日奈と里香ぐらいだ。

 海外赴任は決まっていたし、彼女を作ったところで遠距離になる。最初の赴任は単身で勉強したいと思っていたから、結婚を考えていなかった。忙しいし、恋愛を遠ざけていただけだ。
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