彼女はエリート外交官の求愛から逃れられない
「はー。だから、タイミングが悪くて言えなかった。でも、その後イギリスへ来た日奈にははっきり断ったよ。そのうち、参事官にも話がいくだろう」
 
「そうなのか?原口さんがこんなに大女優になるとは、お前とつきあっていた頃は失礼ながら想像できなかった。今や文化親善大使だからね。外務省としても昔の話を彼女から聞いた以上、玲と復縁してもらうのを望むのはそう責められないからな」

 なんだと?本人が断っているのに、冗談じゃない。

「プライベートと仕事は別の方がいいって父さん言っていたじゃないか。だから、僕は上司の紹介とかも断り続けたのに、なんでこうなるんだよ。とにかく、僕は今の彼女以外と結婚する気はない。戻り次第結婚するつもりなんだ」

「その彼女とはいったいどこで会ったんだ?」

「最初は日本の仕事で知り合った。イギリスに旅行へ来ていて偶然再会したんだ。実は彼女に会いたくて今回は無理に弾丸で帰ったんだよ。時間が合わなくて結局会えなかったけどね」

「母さんよりそっちを優先したんだな。そういうことか。しかし、突然つきあうことになったってどんな子なんだ?その人は何をしているんだ?」

「貿易事務をしている。蓮見商事の貿易部門の子会社にいるんだ」

「ほう、それなら英語も少しは出来るんだろう。お前ともうまくいきそうだな。今度一度紹介しなさい」

「ああ、機会があれば紹介するよ」

「ああ、じゃあな」

「うん。母さんによろしく。適当にごまかしておいて」

「全くしょうがないな」

 参事官が父と面識があるのは知っていたが、日奈のことをそこまで考えているとは思いもしなかった。

 まあ、僕は琴乃以外目に入らない。誰が何を言おうと、何をしようと気持ちは絶対変わらない。無駄なことだと思った。

< 57 / 131 >

この作品をシェア

pagetop