彼女はエリート外交官の求愛から逃れられない
「まあ、それはいい。実家に全く顔を見せず、内緒で帰国したなんて母さんに知れたらことだぞ。玲は年に一度のお土産を奮発しておけば大丈夫だと思ってるんじゃないだろうな?」

「父さんと一緒だよ……わかってるなら言うなよ」

「玲。野原君から言われたが、原口さんとは結局どうなってるんだ?」

 僕は頭を抱えた。参事官自らが父に話したとは思わなかったのだ。

「彼は気をもんでいたぞ。原口さんは復縁の了承を事務所から得て、野原君に復縁を後押ししてくれと頼んでいるらしいな」

「父さん。原口さんとは終わってる。あちらにその気があっても、僕は今つき合っている人がいるから、絶対に日奈とやり直すことはない」

「つきあっている人がいるのか?参事官には話してないのか?」

「はー。だから、タイミングが悪くて言えなかった。でも、その後イギリスへ来た日奈にははっきり断ったよ。そのうち、参事官にも話がいくだろう」
 
「そうなのか?原口さんがこんなに大女優になるとは、お前とつきあっていた頃は失礼ながら想像できなかった。今や文化親善大使だからね」

「ああ」

「しかも、あの事務所もいい気なものだな。昔はお前のことなど、切り捨てるように言っていたらしいのに、お前の仕事と関わりが出来たとみるや否やこれだ」

「全くだよ。しかし、あの事務所と彼女がこんなに大きくなるとは僕もあの頃は想像もしていなかったよ」

「お互い様だな。玲も立派な外交官になってあっちも驚いているんだろうさ」

「それはどうだか知らないが、とにかく、僕は今の彼女以外と結婚する気はない。戻り次第結婚するつもりなんだ」

「その彼女とはいったいどこで会ったんだ?」

「最初は日本の仕事で知り合った。イギリスに旅行へ来ていて偶然再会したんだ。実は彼女に会いたくて今回は無理に弾丸で帰ったんだよ。時間が合わなくて結局会えなかったけどね」

「母さんよりそっちを優先したんだな。そういうことか。しかし、突然つきあうことになったってどんな子なんだ?その人は何をしているんだ?」

「貿易事務をしている。蓮見商事の貿易部門の子会社にいるんだ」

「ほう、それなら英語も少しは出来るんだろう。お前ともうまくいきそうだな。今度一度紹介しなさい」

「ああ、機会があれば紹介するよ」

「ああ、じゃあな」

「うん。母さんによろしく。適当にごまかしておいて」

「全くしょうがないな」

 参事官が父と面識があるのは知っていたが、こんなところでまた日奈とのことを言われるとは思いもしなかった。

 まあ、僕は琴乃以外目に入らない。誰が何を言おうと、何をしようと気持ちは絶対変わらない。無駄なことだと思った。

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