彼女はエリート外交官の求愛から逃れられない
 * * *

「……先輩、先輩ってば、どうしたんですか?」

 私は田沼さんの声に気づいた。パソコンの画面はいつの間にか暗くなっていた。

「具合でも悪いんですか?なんか、昨日のお酒が残ってるとか?」

「あ、ううん。大丈夫。ちょっと早めにお昼行ってもいい?」

「いいですよ。ゆっくりしてきて下さい。あ、具合悪いなら午後帰ります?今日なら大丈夫だと思いますよ」

「あ、うん……ありがとう」

 私は時計を見た。彼は今頃、成田を飛び立ったころだろう。

 朝のお母さんの様子を見て、ますます彼のことを話しづらくなった。

「琴乃、お母さんに黙っておいてもいいんじゃない?」

 昼休み、佳純に言われた。彼女に相談したのだ。

「やっぱりそう思う?」

「うん。所詮さ、連絡は携帯だし、デートもできないし、交際のことは黙っておいた方が無難だよ」

「家まで訪ねてきたから疑ってるんだよね」

「まあ、今まで男の影が見えなかった琴乃に、イケメンの知り合いがいるってわかっただけで、それとなくわかっているけど認めたくないんだろうね。認めると過呼吸になるかもしれないし、自己防衛しているのかもね」

「そうだよね……」

「聞かれたら答えればいいよ。交際しているって言ってもいいけど、所詮会えてないから、心配かけるだけになりそうでしょ」

「うん」

「問題は数年後本当に彼からプロポーズされてからのことかもしれないね。とりあえず、日本勤務のうちに結婚してしまえば、いいんじゃない?お母さんもよくなってるかもしれないし、弦也君だってその頃には就職してるかもしれないじゃない。琴乃ひとりで抱えなくてもいいんじゃないかな」

「佳純ありがとう」

「え、何が?」
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