彼女はエリート外交官の求愛から逃れられない

久しぶりの逢瀬

 やっと会える。朝からそわそわしていた私を母は心配そうに見ていたが、もう何も気にしていなかった。

 玲さんに会いたい。その気持ちしかなかった。

 遠くからでも彼の姿はよく見える。背が高くて、どこか辺りを払うオーラがあるのだ。

 駅前で壁にもたれていた彼は、私に気づいてにっこりと笑った。

 その笑顔を見たら我慢ができなかった。

 あと、五メートル。自然と体が走り出していた。

「……玲さん!」

「ただいま、琴乃!」

 私は身体ごとぶつかるように彼に抱きついてしまった。

 だが、彼はすぐに両手でぎゅっと抱きしめてくれた。

 そこで初めて、周りの人が自分を見ていると気づいた。

「あ」

 私は彼の腕の中から飛び出して下がった。彼は驚いている。

「ごめんなさい、あの、その……」

 彼は黙って私の手を握ると、タクシーに乗り込んだ。

「スワンホテル東京へ」

「え?初詣じゃないの?」

「初詣は夜にしよう」

 そう言う。タクシーは羽田近くのスワンホテルを目指していた。

「日本へ来るとき外交官がよく利用するホテルなんだ。成田から直通でこっちへ来て、泊まることもある」

「そうなの?」

 大理石でできたホテルの門。白い壁紙。とても素敵なホテルだ。外人がたくさんいる。

「ここは、海外のお客様が半数以上だ。仕事で海外のお客様をご案内することが多い。だから、そのままここに泊まって控えていることもある」

 言われてみれば、周りは海外のお客様がほとんどだ。ロビーは英語が飛び交っている。日本とは思えない。

「琴乃は今日僕と泊まれないって言ってただろう?」

 弦也も帰って来ているし、無理だった。
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