彼女はエリート外交官の求愛から逃れられない
 私は驚いて玄関の鏡を覗き込んでそこを確認した。赤い花びらみたいにたくさん散っている。

「……!」

 首元や襟元、服を少しあけてデコルテの部分に点々とたくさん跡がついていた。息が止まった。なにこれ……。

 お母さんが私をじっと見ていた理由がわかった。弦也にも見られてしまうなんて、恥ずかしくて消えてしまいたくなった。

 玲さん、何を考えてるの。信じられない。

 もしかして、イギリスの時もそうだった?私気づいてなかったんだ。

「はー、姉ちゃん。だからぼんやりだって言うんだよ。いい加減、きちんとしたほうがいい」

「……もう、いやだ、どうしよう……」

「そんな恥ずかしがることじゃないだろ?いい大人なんだし、玲さんはいつになっても姉ちゃんがきちんと母さんに話さないから寂しいんじゃないかな。俺ならそう思うよ。もう会うの二度目だろ?それなのに……」

「弦也……わかってるんだけど、怖いのよ」

「姉ちゃん」

「旅行から帰ってきたときのことを思いだすとどうなるか……」

 あの発作を考えると、自分から交際について話すことは難しいと思った。

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