彼女はエリート外交官の求愛から逃れられない
 母は玄関で微動だにせず、なぜか私をじっと見ている。弦也は先に入って行った。

「ねえ、琴乃」

「ん?」

「あなた、あの人と特別な関係なの?」

「……お母さん……」

「でも普段は日本にいないんでしょ。つきあうことなんてできないわよね」

「黙っていてごめんなさい。彼と交際しています。でもお母さんの言う通り、普段彼は日本にいないから、電話かメールがほとんどなの」

「部屋で話しましょう」

 お母さんは絶対怒ってる。くるりと踵を返した。

「お母さん、もう遅いし、今日は寝た方がいいわ。明日話します」

「そうね。わかったわ。でもきちんと教えて」

「うん。おやすみ」

 お母さんは部屋へ戻って行った。後ろから弦也が出て来て、私を見て目を見開いた。

「姉ちゃん、そこ……跡ついてるぞ」

「え?」

 弦也がにやにやしながら、首元と襟元を指さした。

「さっきまでストールで隠れてたから気づかなかったんだろう。すごいな、さすがにこれじゃ母さんにもばれるわ……やるな玲さん、独占欲丸出し……」

 
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