花かげに咲く、ひとひらの恋

第1部 花の名を知らずとも

「私は蒼(そう)国の大臣を務める父の娘だった。」

この国に生まれた娘として、家のために生きることは当然のこと――そう教えられてきた。

蒼国の皇帝、蒼 光(そう・こう)陛下は、未だに正妃である蒼 霞(そう・か)様ただひとりを愛し、他の妃を迎えることなく政務に励んでいるという。

そんな折、父上が静かに告げた。

「そこでだ。おまえが、妃の一人になるんだ」

耳を疑った。私は皇帝に選ばれたわけでもない、ただの娘でしかないのに。

「今度の茶会でおまえをお目見えさせる。陛下と顔を合わせる機会だ」

「……でも、陛下がお気に召さなければ?」

「それでも、おまえは後宮に入る。もはや決まったことだ」

運命は、こちらの意志など待ってはくれない。

――この日から、私は愛されぬまま、後宮に咲く一輪の花となる。
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