花かげに咲く、ひとひらの恋
お目見えの日。
春の光に照らされて、庭の花々はたおやかに咲いていた。

宮殿の奥庭に、仮の席が設けられていた。

そこに――蒼国の皇帝陛下、**蒼 光(そう・こう)**様がお座りになっていた。

緊張が、胸の奥でひたひたと湧き上がる。

あの方に気に入っていただけなければ、私はただの「妃のひとり」として、後宮の片隅に一生、影のように過ごすことになる。

私と父は、ゆっくりとその御前へ歩を進める。

「皇帝陛下。大臣・林啓の娘、**蕾花(らいか)**にございます。」

私は深く頭を下げた。視線を足元に落としたまま、息を整える。

そして、静かな声が降りてきた。

「――顔を上げよ。」

その一言に従い、そっと顔を上げた瞬間だった。

視界に映ったのは、威厳と静けさをまとった若き帝の姿。

その瞳が、まっすぐに私を見ていた。

胸の奥に、小さな波が立った。

名も告げただけの一瞬――けれど確かに、心が揺れた。

それが、私の恋の始まりだった。
< 2 / 12 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop