茨の冠は恋を知る
「……舞台が欲しいのなら、せいぜい綺麗に踊りなさい。
私の影にならずに済むなら、の話だけれど」
その一言に、セシリアの笑顔が一瞬止まる。
だが周囲には、姉妹が楽しげに言葉を交わしているようにしか見えない。
リシェルは人目のある場を使って、“宣戦布告”をしたのだ。
しばらくして──
第二王子カイル・ヴァレンティウスが現れると、会場は再びどよめいた。
「……お美しいですね、リシェル嬢」
彼は形式的な言葉だけを告げ、彼女の隣に立った。
それだけでいい。契約なのだから。
けれど──
「あなたも、似合っています。冷たい銀の衣が、まるで氷の王のよう」
「氷の王、か……。俺に似合う称号だな」
「けれど氷は、時に炎よりも危うく、美しい」
一瞬、カイルの視線が彼女に向く。
リシェルの真紅のドレスと、涼やかな瞳が重なるその姿に、会場中の視線が注がれる。
それはまるで、王と王妃のような光景だった。
周囲がざわめく中、カイルがぽつりと告げた。
「……今宵、主役は君のようだな」
リシェルは、初めて、ほんの僅かに唇をほころばせた。
それは彼女が選び取った勝利の微笑──
悪役令嬢の座を、逆手に取った“反撃”の始まりだった。