茨の冠は恋を知る
アナウンスと共に歩み出たその瞬間、すべての目が彼女に注がれる。
セシリアが先に登場し、群衆に囲まれていたが、その空気は一気に塗り替えられた。
「……っ、姉様?」
まるで焦ったようにこちらを見つめるセシリアの視線を、リシェルは真っ直ぐに受け止めた。
だが、にこりともしない。
あくまで上流令嬢としての礼節を守り、そっと目を伏せる。
その仕草すら、美しく、そして威圧感を纏っていた。
「──貴女に、お話ししたいことがあって」
セシリアが寄ってくる。
数歩離れたところで、見計らったように話しかけてきたその声は、まるで小鳥のさえずりのように愛らしい。
「今夜は、仲良くしましょうね、姉様」
「ほら……私たち、家族でしょう?」
社交界の中心で“仲睦まじい姉妹”を演出する──
前世の彼女なら、ここで“許す姉”を演じたかもしれない。
だが今は違う。リシェルは、優雅に口元を歪めて、囁いた。