茨の冠は恋を知る



 アナウンスと共に歩み出たその瞬間、すべての目が彼女に注がれる。
 セシリアが先に登場し、群衆に囲まれていたが、その空気は一気に塗り替えられた。

 

 「……っ、姉様?」

 

 まるで焦ったようにこちらを見つめるセシリアの視線を、リシェルは真っ直ぐに受け止めた。
 だが、にこりともしない。
 あくまで上流令嬢としての礼節を守り、そっと目を伏せる。

 その仕草すら、美しく、そして威圧感を纏っていた。




「──貴女に、お話ししたいことがあって」

 セシリアが寄ってくる。
 数歩離れたところで、見計らったように話しかけてきたその声は、まるで小鳥のさえずりのように愛らしい。

 

「今夜は、仲良くしましょうね、姉様」
「ほら……私たち、家族でしょう?」

 

 社交界の中心で“仲睦まじい姉妹”を演出する──
 前世の彼女なら、ここで“許す姉”を演じたかもしれない。

 だが今は違う。リシェルは、優雅に口元を歪めて、囁いた。

 


< 6 / 40 >

この作品をシェア

pagetop