夜を導く光、それは赤い極道でした。
Lux4:若頭
【第1話】LED──Legend Elegant Dungeon、伝説の始まり
──伝説は光を連れてやってくる。
頂に立つ者は、威厳だけじゃない。
ふとした笑顔、突き刺す眼差し、
それでも誰かを想う心がある。
その光は、LEDよりも眩しく、
誰かの運命を変えてしまうから──
────
「おまえが真次郎の連れてきた客か」
部屋に通された澪は目の前の高級そうな机、その向こうでこれまた高級そうな椅子に座る男を凝視する。真次郎から若頭が呼んでいると伝えられ久我山と共にここにきたが、部屋の空気は少し異様だった。
共にきた久我山は面倒そうな顔つきで、真次郎の表情は少し暗い。松野は何やら楽しそうで、長身の男はニコニコはしているが胡散臭い。そして、若頭。何やら試すようなその視線。笑ってはいるが、友好的な感じはしない。
これが本来の極道の醸し出す空気なのかと澪は呑気に考える。そして、思うのだ。自分の考察は間違っていないと。
「やはり……」
「なんだ?言いたいことがあるなら発言していいぞ」
若頭の男は余裕な態度を崩さずにいる。澪が何を言ったところで大したことはないと思っているのがみえみえだ。きっとそれは、若頭の隣に立つ長身の男も同じなのだろう。
普通の女子高生ならば、極道のトップを前にして下手なことは言えない。言えるわけがない。それが普通。当然。
けれど、この場で3人だけはこれからの澪の行動を予想する。澪という人種の突飛さに振り回された真次郎、松野、久我山は。
その予想通り、澪は堂々としていた。いや、深く考えていないのだ。許可が出たならば、こっちのもの。そんな風に澪は捉えていた。
だから、口からスルスルと出る。
素直な感想が────。
「ここの極道の採用基準は顔面偏差値の高さなのだなと納得しました」
「は?」
若頭の間抜けな声が響く。長身の男も目を丸くする。澪は気にも留めずに、喋り続けた。
「まっつんもくーちゃんもそこの背の高いお兄さんも。ああ、もちろんジロも。みなさんかっこいい所謂イケメンでいらっしゃる」
うんうんと頷きながら、彼らを見回す澪。呆れ、笑い、驚きなどさまざまな反応を示される。間違ったことは言ってはいないと自信があるから、澪は臆せず若頭に視線を戻した。
「その中でも、あなたは群を抜いてますね」
「へぇ?どんな風に?」
「そうですね……」
澪は若頭の銀髪に注目する。その光が部屋の明かりにより反射しているのを見て、何かとリンクする。
そう、自分の家にもある。明るく照らすそれ。
「キラッキラしてます。眩しくて……そう、LEDライトのように!」
すごくわかりやすい例えだと自信満々な澪。真次郎は呆れ返り、松野は肩を震わせ、久我山は顔を逸らした。彼の肩も松野と同様に震えている。
しかし、若頭の手前だれも大声で笑うことはない。
ただ1人を除いて……。
「ぶふっ……!!」
「おい、信昭」
「ひいっっ、ひっひっ……LEDって……おなか、いたっ……」
若頭の右腕、信昭と呼ばれた男は遠慮なく笑い続ける。唯一反応が良かったのがうれしかった澪は「ですよね?」と同意を求めた。
「今どこにも欠かせないレベルの存在となる光と同等の輝きですよ。若頭もこの組に欠かせないお方ですよね?」
「うんうん、そうだねぇ」
「なら、やはりLEDです。若頭はこの組のLED!」
「そう、だねっ…….ぶはっ!!」
信昭は堪えきれずにまたしても吹き出す。澪に会わせた瞬間からこれでは収拾がつかない。真次郎は小声で澪に「おいっ」と苦言を呈した。
「おまえ、何言ってんだマジで」
「え?何かダメでした?ピッタリだったでしょ」
「んなわけあるか。なんだよLEDって、人の組の兄貴を家電にすんな」
「まだまだですね、ジロ。このLEDは照明器具では終わりませんよ」
「あ?なんだよ」
真次郎は怪訝な顔をする。澪は口の端を上げた。これから唱える自分の言葉に絶対の自信があるその表情。
「Legend!Elegant!えーっと……そう!Dungeonquestst!略してLED!」
「なんでっ、それっぽいタイトルでごまかしてんだアホか!!」
「かっこいいじゃないですか、そう、“伝説が始まる”──ですよ!」
「知るかっ!」
「伝説を作ろうぜ!的な、少年漫画らしいですよね」
「ここは極道だ!」
「おお、悪の伝説でしたか。厨二病な感じの」
「ちげぇから!」
「ぐおおっ!この左腕が疼くぜえええ!」
「おまえほんっとやめろ!!」
思わず声を荒げてしまう真次郎を誰も責められない。寧ろ真次郎が追い討ちをかけたと言っても過言ではない。澪のアホ丸出しの発言に真次郎の鋭いツッコミ。奇跡のコラボレーションに、部屋の中は一気に笑いに包まれた。
────
眩しさには、理由がある。
威厳がある者ほど、笑いを忘れない。
世界を照らす者に必要なのは、
光源か、それともユーモアか。
──これは、伝説と家電の境界を飛び越えた、
まばゆい極道の話。
next