堅物マジメな御曹司は契約妻にひたすら隠した溺愛を解き放つ~円満離婚はもう無理だ~
エピローグ
十二月。私のスマホに思いがけない人物から連絡が入った。
『久しぶり、紫緒ちゃん。元気にしてる?』
「七菜香ー⁉ ちょっと、今までどうしていたのよ! 全然連絡をよこさないで」
なかなか既読がつかないから心配していたのだ。
『迷惑をかけてごめんなさい。海外のスマホに替えたらアプリの連携がうまくいかなくて、連絡が遅くなっちゃった。他の連絡先も持ってないし』
「私の連絡先なんてどこからでも入手できたでしょう……あんた怒られるからって後回しにしたわね」
『それも否定できない』
きちんと認めるところは潔いが、式の直前に駆け落ちして散々周囲に迷惑をかけたことには正式な謝罪を要求したい。
「それで駆け落ちしてどこにいるの? さっき海外のスマホって言ってたけど」
『駆け落ちは嘘よ。実は今ロンドンに留学しているの。一応おじい様には許可をもらっていたんだけど』
「は……はあっ⁉」
彼女は自分の両親すら騙してこっそりイギリス留学を進めていたらしい。
そして結婚については、ずっと自分より私の方が清雅と合うと思っていたそうだ。
『でも私がいたら縁談相手は変更できないじゃない? それならいっそ国外に行っちゃおうかなと。いろんな人に迷惑をかけるけれど、今までわがままひとつ言わなかったんだもの。最初で最後のわがままくらい叶えてもいいんじゃないかって思って』
途中からスピーカーフォンに変更し、清雅も同席させた。
彼こそ一番七菜香に振り回された被害者だ。
電話越しに謝罪をさせて、清雅は淡々と受け入れた。
「七菜香さんは私のことが嫌いだったわけではないんですか」
『まさか! 清雅さんが嫌いだったから逃げたんじゃないですよ。私にとっての清雅さんはたまに手紙のやり取りをする文通相手というか、先輩後輩? 教師と生徒? って感じで、でも親愛は芽生えていたかなと。まあ、結婚しても仮面夫婦になる予感がしてたし、お互い腹の中を見せないまま過ごすことになっていたと思いますよ』
良くも悪くも七菜香と清雅は似ているところがあるらしい。
仕事上のパートナーとしてはいいけれど、一緒にいても安らぎは感じにくいだろうと思っていたそうだ。
『それにさっきも言ったけど、清雅さんは紫緒ちゃんのような感情表現が豊かで思ったことを口にする女性がお似合いだと思っていたので。紫緒ちゃん美人だし、一目惚れするんじゃないかなって予想してたんですよね』
「ちょっと七菜香!」
「その予想は当たっているな」
素直に認められると私の方が恥ずかしい。急に顔が熱くなってくる。
『とはいえ、まさか式を決行するとは思わなかったから私もびっくりよ。本当うちの親戚って非常識よね。てっきり一旦保留にして、ふたりの相性を確認してから改めてって形になると思っていたのに』
「あんたも確実に蓮水の血を引いてるからね」
一番の非常識女がなにを言う……終わり良ければ総て良しとは言うけれど、そこまで達観するには時間がかかる。
「というか、留学を知ってたならおじいちゃんは全部わかってたってことよね?」
『もちろん。本人同士が決めたことを尊重するって約束してくれたわ』
あの狸め……その割には強引に私に結婚を勧めなかったか。
『でもこうしてふたりが一緒にいるってことは、思った通り愛が芽生えたってことよね? つまり私って恋のキューピッドじゃない?』
「調子に乗らない!」
呆れながら怒る私を清雅がグイッと抱きしめてくる。
「いろいろありましたが、最愛の妻と出会えたのは七菜香さんのおかげですね。駆け落ちしてくれてありがとうございました」
『私、清雅さんのそういう本音なのか嫌味なのかわからないところを考えすぎて、ときめかなかったんだって思うわ』
そう七菜香は言うけれど、これは本心からの言葉だろう。
清雅は随分表情筋が動くようになったけれど、真顔で言われたら真意を掴むまで時間がかかりそう。
『私もいい報告ができるように頑張るんだから。楽しみにしていてよね』
そう強気な発言をして通話が切られた。
「いろいろ振り回されたけれど元気そうだったし、みんなハッピーってことでいいのかな?」
「いいんじゃないか」
柔らかく微笑む清雅に抱き着きながら頬にキスをする。
私はすっかり彼に甘えることに慣れていた。
「ねえ、今度ひいおじいちゃんたちのお墓参りに行こうか」
曾祖父たちに結婚の報告をしに行きたい。
「俺も同じことを考えていた」
曾祖父同士のはた迷惑な約束だと思っていたけれど、結果的に清雅と出会えて幸せな結婚ができた。
愛する人と溶けあうようなキスを交わして、これからも幸福な時間が続くことを願うのだった。
END.
『久しぶり、紫緒ちゃん。元気にしてる?』
「七菜香ー⁉ ちょっと、今までどうしていたのよ! 全然連絡をよこさないで」
なかなか既読がつかないから心配していたのだ。
『迷惑をかけてごめんなさい。海外のスマホに替えたらアプリの連携がうまくいかなくて、連絡が遅くなっちゃった。他の連絡先も持ってないし』
「私の連絡先なんてどこからでも入手できたでしょう……あんた怒られるからって後回しにしたわね」
『それも否定できない』
きちんと認めるところは潔いが、式の直前に駆け落ちして散々周囲に迷惑をかけたことには正式な謝罪を要求したい。
「それで駆け落ちしてどこにいるの? さっき海外のスマホって言ってたけど」
『駆け落ちは嘘よ。実は今ロンドンに留学しているの。一応おじい様には許可をもらっていたんだけど』
「は……はあっ⁉」
彼女は自分の両親すら騙してこっそりイギリス留学を進めていたらしい。
そして結婚については、ずっと自分より私の方が清雅と合うと思っていたそうだ。
『でも私がいたら縁談相手は変更できないじゃない? それならいっそ国外に行っちゃおうかなと。いろんな人に迷惑をかけるけれど、今までわがままひとつ言わなかったんだもの。最初で最後のわがままくらい叶えてもいいんじゃないかって思って』
途中からスピーカーフォンに変更し、清雅も同席させた。
彼こそ一番七菜香に振り回された被害者だ。
電話越しに謝罪をさせて、清雅は淡々と受け入れた。
「七菜香さんは私のことが嫌いだったわけではないんですか」
『まさか! 清雅さんが嫌いだったから逃げたんじゃないですよ。私にとっての清雅さんはたまに手紙のやり取りをする文通相手というか、先輩後輩? 教師と生徒? って感じで、でも親愛は芽生えていたかなと。まあ、結婚しても仮面夫婦になる予感がしてたし、お互い腹の中を見せないまま過ごすことになっていたと思いますよ』
良くも悪くも七菜香と清雅は似ているところがあるらしい。
仕事上のパートナーとしてはいいけれど、一緒にいても安らぎは感じにくいだろうと思っていたそうだ。
『それにさっきも言ったけど、清雅さんは紫緒ちゃんのような感情表現が豊かで思ったことを口にする女性がお似合いだと思っていたので。紫緒ちゃん美人だし、一目惚れするんじゃないかなって予想してたんですよね』
「ちょっと七菜香!」
「その予想は当たっているな」
素直に認められると私の方が恥ずかしい。急に顔が熱くなってくる。
『とはいえ、まさか式を決行するとは思わなかったから私もびっくりよ。本当うちの親戚って非常識よね。てっきり一旦保留にして、ふたりの相性を確認してから改めてって形になると思っていたのに』
「あんたも確実に蓮水の血を引いてるからね」
一番の非常識女がなにを言う……終わり良ければ総て良しとは言うけれど、そこまで達観するには時間がかかる。
「というか、留学を知ってたならおじいちゃんは全部わかってたってことよね?」
『もちろん。本人同士が決めたことを尊重するって約束してくれたわ』
あの狸め……その割には強引に私に結婚を勧めなかったか。
『でもこうしてふたりが一緒にいるってことは、思った通り愛が芽生えたってことよね? つまり私って恋のキューピッドじゃない?』
「調子に乗らない!」
呆れながら怒る私を清雅がグイッと抱きしめてくる。
「いろいろありましたが、最愛の妻と出会えたのは七菜香さんのおかげですね。駆け落ちしてくれてありがとうございました」
『私、清雅さんのそういう本音なのか嫌味なのかわからないところを考えすぎて、ときめかなかったんだって思うわ』
そう七菜香は言うけれど、これは本心からの言葉だろう。
清雅は随分表情筋が動くようになったけれど、真顔で言われたら真意を掴むまで時間がかかりそう。
『私もいい報告ができるように頑張るんだから。楽しみにしていてよね』
そう強気な発言をして通話が切られた。
「いろいろ振り回されたけれど元気そうだったし、みんなハッピーってことでいいのかな?」
「いいんじゃないか」
柔らかく微笑む清雅に抱き着きながら頬にキスをする。
私はすっかり彼に甘えることに慣れていた。
「ねえ、今度ひいおじいちゃんたちのお墓参りに行こうか」
曾祖父たちに結婚の報告をしに行きたい。
「俺も同じことを考えていた」
曾祖父同士のはた迷惑な約束だと思っていたけれど、結果的に清雅と出会えて幸せな結婚ができた。
愛する人と溶けあうようなキスを交わして、これからも幸福な時間が続くことを願うのだった。
END.