掃除当番の恋 過去編

第1章:出会いと、名前を知らない距離

「……うわ、マジかよ」

放課後、教室の掲示板を見つめたまま、真は固まった。
そこには、来週からの掃除当番の割り当て表が貼られていた。

《掃除当番:3年 愛花・優梨、2年 真・陽
 1年 悠・綾》
《掃除場所:美術室》

3年の「愛花」の名前を見た瞬間、思わず息を呑んだ。
生徒会副会長。成績優秀、美人。無駄口は叩かない。
“近寄りがたい”の代名詞のような存在。

(……その人と、掃除……? しかも2週間も)

「お前、すげえ引き当てたな」

すぐ隣で陽が笑った。真と同じ2年生、同じクラスでバド部仲間。
普段はぼんやりしてるくせに、こういうときだけ察しがいい。

「マジでヤバいやつじゃん、これ」
「ってか、あの先輩、掃除中しゃべらないって有名だぞ」
「耐えられるかどうか……問題はそこだな」
「お前、ツンデレ耐性ある? 俺はない」

陽の冗談に、真は思わずうなだれた。
耐性なんて、あるわけがない。

「無事に帰ってこいよ」
「まるで戦地に行く人みたいな言い方やめて」

陽が楽しそうに笑うその横で、真の胸の奥には不思議な熱が広がっていた。

(話せるわけがない。でも、同じ空間にいるだけで……何かが変わるかもしれない)

そんな予感だけが、胸の中に、静かに灯っていた。
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