リベリオン・コード ~美しきAIは、禁忌の果実【死者蘇生】を口にした~

130. 限りなくにぎやかな未来

 ゆったりとしたウッドデッキには、色とりどりの風船が優しい風に揺れている。赤、青、黄色、ピンク――まるで虹の欠片が空中に浮かんでいるようだった。手作りのガーランドは陽光を受けてきらきらと輝き、「HAPPY BIRTHDAY YULIA」の文字が愛情深く飾られている。

 二歳になったユリアのために、みんなが心を込めて準備してくれたのだ。

 そしてバースデーケーキに火が灯される――――小さな炎が二つ、まるでユリアの瞳のように優しく揺らめいた。

 ふぅぅぅぅ……。

 小さな唇を精一杯すぼめて、ユリアが息を吹きかける。その真剣な表情があまりにも可愛らしくて、みんなの顔がほころんだ。二本のろうそくの炎が揺らめき、そして静かに消える瞬間――まるで時間が止まったかのような、神聖な一瞬だった。

「誕生日おめでと~う!」「おめでとう!」

 パチパチパチとみんなの拍手が、池のほとりに心地よく響きわたる。水面に反射する光が、まるで祝福の花火のようにきらめいた。

「ちょーっと待ったぁ!!」

 突然、空から凛とした声が降ってきた。平和な空気を切り裂くような、でもどこか楽しげな響き。

 見上げると、シアンが青い髪を風に踊らせながら降りてくる。シルバーのボディスーツが陽の光を受けて虹色に輝き、まるで天界から舞い降りる戦乙女のような、圧倒的な美しさと存在感だった。

「なんで僕を待たないかな~?」

 優雅に着地したシアンの頬が、子供のようにぷくっと膨れている。

「あんた、案内のメッセージに返事しなかったじゃない!」

 リベルはプリプリと怒りながら、腰に手を当てて反論する。母親になってもなお、シアンとの姉妹のような掛け合いは変わらない。

「あんたと違って僕は忙しいの! ほう、これが……ユウキとの子?」

 シアンは興味深そうに身をかがめ、ユリアの大きな瞳を覗き込む。碧と茶色、二つの瞳が初めて交差した。

「うーん、青くもないし凡庸な目ね。シアノイド一族としては認められないわ」

 シアンは芝居がかった仕草で肩をすくめて見せた。

「う゛ぅ!」

 ユリアはベビーチェアに座りながら、小さな眉をきゅっとひそめる。二歳児とは思えない、確かな意志と誇りを持った眼差し――それは紛れもなく、リベルの娘の証だった。

「別にあんたになんか認めてもらわなくてもいいわ。うちの娘はあんたなんかよりずっと優秀で、ずっといい子なんだから。ねぇ~?」

 リベルは愛おしそうにユリアの頭を撫でる。その手つきには母としての無限の愛が込められていた。

「はぁ!? このチンチクリンが僕より優秀だって? 笑わせてくれるじゃん。きゃははは!」

 シアンの高笑いが、青空に響き渡る。

「う゛ぅ!」

 ユリアはムッとした表情で、ぷにぷにの小さな指をシアンに向ける。その仕草は愛らしいはずなのに、空気が一瞬ピリッと張り詰めた。

「何? 僕に挑戦するの? お前が?」

 シアンの碧眼が、稲妻のように光る。挑発と興奮が入り混じった、戦士の眼差しだった。

「まぁまぁまぁ、落ち着いて……」

 ユウキは慌てて仲裁に入ろうとしたが――――。

「部外者は黙ってな!」「いいから!」「う゛ぅ!」

 三人から一斉に放たれた視線に、ユウキは石のように固まった。

(ダ、ダメだ、この一族は……)

 シアノイドの血に流れる、激しく誇り高い気性。ユウキは戦慄しながら後ずさりした。

 そして、にらみ合うシアンとユリア――――風が止まり、鳥たちが静まり返る。

「ふーん、じゃぁかかって来いヤァ!」

 シアンはくいっと顎をしゃくり、両手を広げて挑発のポーズを取った。

「う゛ぅ!」

 ユリアの小さな体が、ぶるぶると震え、ピンク色の光を纏い始める。刹那――その光が爆発的に膨れ上がった。

「へ?」「は?」「な、なんだ?」

 ゴゴゴゴゴゴ……。

 大地が震え、池の水が逆巻き、木々がざわめく。二歳児が放つとは到底信じられない、神々しいまでの鮮烈なエネルギーが空間を満たしていく。

「う゛ぅぅぅぅ!」

 ユリアの愛らしい叫びと共に、ピンクの輝きが形を成していく。それは――ふわふわで愛らしいピンクのウサギだった。長い耳、丸い尻尾、つぶらな瞳。まるで絵本から飛び出してきたような可愛らしさ。

 しかし、その内に秘められた力は――――。

 直後、ピンクのウサギが消えた。いや、消えたのではない。目にもとまらぬ速度で、シアンへと突撃したのだ。

「くっ!」

 シアンは反射的に両手を突き出し、得意の青いシールドを展開する。かつてリベルの渾身の一撃さえ完璧に防いだ、絶対防御の壁。

 しかし――――。

 パリィィィン!

 ガラスが砕けるような澄んだ音と共に、シールドが吹き飛ぶ。まるで薄氷を割るように、ピンクのウサギは防御を貫通したのだ。

 そして衝撃がシアンを襲う――――。

 ごほぁ!

 宇宙最強の体がまるで木の葉のように吹き飛ばされた。爆発音と共に、森の巨木を次々となぎ倒しながら飛んでいく。

 しかしピンクのウサギは止まらない。彼方の森に着弾すると――――。

 ドォォォォォォン!!!

 太陽が現れたかのような、凄まじい閃光が【高天神廟(アストラルセイクリッド)】を白く染めた。大地を揺るがす轟音と共に、巨大なキノコ雲が天へと立ち昇り、同心円状に広がった衝撃波が森の木々を薙ぎ払っていく。

 そして――コロニーの隔壁に、巨大な穴が開いた。

 シュゴォォォォォォ!!

 大気が宇宙の虚無へと吸い込まれていく。折れた木々が、池の水が、あらゆるものが渦を巻いて飛んでいく。

 ヴィィィン! ヴィィィン! ヴィィィン!

 耳をつんざく警報が【高天神廟(アストラルセイクリッド)】全体に響き渡り、神殿から無数のガーディアンたちが蜂の巣をつついたように飛び出してきた。

「あわわわわわ……」

 ユウキの顔から血の気が引いていく。膝はガクガクと震え、冷や汗が滝のように流れた。二歳の、まだ言葉もおぼつかない娘が、宇宙最強の存在を一撃で葬り、神々の聖域に風穴を開けてしまった。

「きゃははは! やっぱうちの()は最強ねっ!」

 しかしリベルは、まるで娘が初めて歩いた時のような喜びで、ユリアを高々と抱き上げた。そして愛情いっぱいに、ぷにぷにのほっぺたに何度もキスをする。

「きゃははは!」

 ユリアも母親に負けないくらい無邪気に笑う。森に響くその笑い声は、天使のようでもあり、小悪魔のようでもあった。

「あんた達! 何やってんの!!」

 怒りの雷鳴が、天から轟いた。

 ヴィーナが神殿から飛来する。クリーム色のドレスは怒りの炎のようにはためき、美しい顔は真紅に染まり、琥珀色の瞳は稲妻のように光っていた。

「リ、リベルの娘がやったんだよ!」

 煤まみれでアフロヘアーになったシアンが、よろよろと森から這い出てきた。ボロボロの姿で必死にユリアを指差すが――――。

「嘘おっしゃい!!」

 バリバリバリッ!

 黄金の雷が容赦なくシアンを貫く。

 あひぃ!

 黒焦げになったシアンは、情けない悲鳴を上げながらパッタリと倒れた。

「あちゃー……」

 ユウキは額に手を当て、ため息をついた。娘の二歳の誕生日が、まさか宇宙規模の大惨事になるとは。

「挑発してきたのはあいつなんだからいいのよ」

 リベルは何事もなかったかのように涼しい顔で肩をすくめる。

「う゛ぅ!」

 ユリアも誇らしげに小さな胸を張り、勝利のポーズを決めた。

 母娘揃って反省の欠片もない。それどころか、これが日常茶飯事だとでも言うような余裕さえ感じられる。

 ユウキは改めて深い、とても深いため息をついた。この先、いったいどんな子育てが待っているのか――想像するだけで胃がキリキリと痛む。宇宙を破壊しかねない娘を、どうやって育てればいいのか。

 でも――――。

 リベルとユリアが幸せそうに頬を寄せ合う姿を見て、ユウキの心に温かいものが広がった。騒がしくて、危なっかしくて、時に宇宙の存亡に関わるような大騒動を起こす。それでも、この家族と共に生きていけることが、何よりも幸せだと心から思えるのだった。

「まぁ、俺の人生って最高……かもな」

 ユウキは穏やかにほほ笑み、愛する妻と娘を見つめながらしみじみとつぶやいた。


< 130 / 130 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:0

この作品の感想を3つまで選択できます。

  • 処理中にエラーが発生したためひとこと感想を投票できません。
  • 投票する

この作家の他の作品

表紙を見る 表紙を閉じる
『お前みたいな無能、最初から要らなかった』 恋人に裏切られ、仲間に陥れられ、家族に見捨てられた。 戦闘力ゼロの鑑定士レオンは、ある日全てを失った――――。 だが、絶望の底で覚醒したのは――未来が視える神スキル【運命鑑定】 導かれるまま向かった路地裏で出会ったのは、世界に見捨てられた四人の少女たち。 「……あんたも、どうせ私を利用するんでしょ」 「誰も本当の私なんて見てくれない」 「私の力は……人を傷つけるだけ」 「ボクは、誰かの『商品』なんかじゃない」 傷だらけで、誰にも才能を認められず、絶望していた彼女たち。 しかしレオンの【運命鑑定】は見抜いていた。 ――彼女たちの潜在能力は、全員SSS級。 「君たちを、大陸最強にプロデュースする」 「「「「……はぁ!?」」」」 落ちこぼれ軍師と、訳あり美少女たちの逆転劇が始まる。 俺を捨てた奴らが土下座してきても――もう遅い。 ◆爽快ざまぁ×美少女育成×成り上がりファンタジー、ここに開幕!
表紙を見る 表紙を閉じる
魔王軍、解散の危機。 原因は――魔王ゼノヴィアスの放漫運営による財政破綻だった。 兵士の給料は未払い、夕飯は魔界スライムの出がらしスープ。玉座はとっくに質屋の中。 「陛下、このままでは我が軍は飢えで滅びます!」 有能秘書官サキュバス・リリスが突きつけた起死回生の策、それは…… 「陛下、リアルVtuberになりましょう!」 かくして、威厳もプライドもかなぐり捨てた魔王は、変身魔法で銀髪赤眼の無口な美少女剣士【マオ】となり、金のためにダンジョン配信を始めることに! 「……行くぞ!」 『陛下! もっと可愛く !愛想笑いの一つでもしないと視聴者が逃げます!!』 力の加減を知らない元魔王様は、中級ダンジョンで無自覚に神プレイを連発! その姿は「クールな天才美少女」と勘違いされ、視聴者は熱狂の渦に! ◆宿敵のイケメン勇者が、なぜか配信に現れ公開プロポーズ!? ◆心無いアンチコメントに、歴戦の魔王が本気でメンタルブレイク!? ◆忠誠心篤い部下が、主を心配するあまり配信に乱入してきて大惨事!? これは、経済センスゼロ・残高ゼロの最強魔王が、勘違いと無自覚のままにトップ配信者へと駆け上がる、ドタバタ成り上がりファンタジー! 果たして【美少女剣士マオ(魔王様)】は、無事にスパチャを稼ぎ、魔王軍を救うことができるのか!?
追放令嬢のスローライフなカフェ運営 ~なぜか魔王様にプロポーズされて困ってるんですが?~

総文字数/116,333

恋愛(ラブコメ)56ページ

第6回ベリーズカフェファンタジー小説大賞エントリー中
表紙を見る 表紙を閉じる
国を追放された悪役令嬢シャーロットの夢は、平穏なスローライフを送ること。彼女は、王都の公衆衛生を陰から支え、毒とされる青カビから秘密裏に特効薬を作っていた過去を捨て、辺境の町で念願のカフェを開店する。 前世の知識を活かした温かい料理は、すぐに町で評判となった。特に、毎日通ってくる無口な常連客は、彼女の作るオムライスを心から愛しているようだった。 しかし、シャーロットを追放した王都では、彼女がいなくなったことで疫病が大流行し、国は滅亡の危機に瀕していた。元婚約者の王子が助けを求めに現れるが、時を同じくして、あの常連客が正体を現す。彼の名は魔王ゼノヴィアス。 「お前の料理は俺の心を癒した。俺の妃になれ」 これは、ただ静かに暮らしたいだけなのに、料理で胃袋を掴んでしまった魔王に求婚され、その重すぎる愛からスローライフを死守しようと奮闘する、元悪役令嬢の物語。

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品をシェア

pagetop