リベリオン・コード ~美しきAIは、禁忌の果実【死者蘇生】を口にした~
92. 五万年を超えたリベリオン
「ハーイ! 起きた起きた! きゃははは!」
頬を優しく叩かれる感触に、ユウキはゆっくりと目を覚ます――――。
「うはっ! ま、眩しい……。こ、ここは……?」
燦燦と降り注ぐ陽光が、まるで祝福のように全身を包み込んでいた。あまりの眩しさに、ユウキは反射的に腕で顔を覆った。
「なんだよ……」
確か森の中の丸太に横たわっていたはずなのに、この圧倒的な光の洪水は一体何なのか。違和感を覚えながら身体を起こそうとして、ユウキははっとした。あのカワウソの軽やかさが失われているのだ。
「あ、あれ……? こ、これは……?」
震える手で目をこすり、恐る恐る自分の身体を見下ろす。そこにはライトブルーのシャツに包まれた、まごうことなき人間の身体があった。
「お、おぉぉぉ……」
指を一本一本確かめるように動かし、その感触に涙が込み上げてくる。
「どう? 希望通りよ?」
見上げると、シルバーのジャケットを纏ったリベルが、青空を背景に優雅に宙に浮かんでいた。その青い髪が風になびき、碧眼がいたずらっぽく輝いている。
「や、やたっ! ありがとう! リベル……って、へぇっ!?」
歓喜の声を上げかけたユウキの言葉が、途中で驚愕に変わった。
視界に飛び込んできたのは、灰色のコンクリートの床。その向こうで太陽の光を受けてきらめく海。潮風が頬を撫で、懐かしい潮の香りが鼻腔をくすぐる。
ここは――――オムニスタワーの屋上!? かつて自分が絶望の中で非業の死を遂げた、あの場所だった。
「ま、まさか……もう?」
よろめきながらフェンスへと駆け寄る。震える手で金属の冷たさを感じながら、眼下に広がる光景に息を呑んだ。
そこには、あの日見た摩天楼がそのままの姿で佇んでいた。ガラスの壁面が陽光を反射し、まるで巨大な宝石のように輝いている。東京湾の青い水面の向こうには、神奈川の街並みが霞みながらも確かに存在していた。
「ほわぁぁぁ……」
言葉にならない感嘆が、魂の奥から漏れ出してくる。
「ふふーん、どう? キミが望んでた日本よ?」
リベルの誇らしげな声が、風に乗って届く。
「すっ、すごい! すごいよ! さすがリベル!!」
ユウキは子供のようにぴょんぴょんと飛び跳ねた。五万年前、核の業火に包まれて灰燼に帰したはずの関東平野が、まるで悪夢など存在しなかったかのように、あの日のままの姿で蘇っている。それは奇跡を超えた奇跡――――神の御業そのものだった。
「うぅぅぅ……。日本だ……」
堰を切ったように涙があふれ出す。拭うこともせず、ただただその愛おしい風景を瞳に焼き付けた。五万年という気の遠くなるような時を超えて、ようやく帰ってきたのだ。
「やっぱり日本が落ち着くわよね……」
ふわりと舞い降りたリベルが、背後から優しくユウキを抱きしめる。その温もりが、震える心の奥底まで染み渡っていく。
何もかもがうまくいかず、もがき苦しみながら失敗を重ね、最後は核の炎に全てを奪われた東京――――。しかし今、潮風に頬を撫でられながら眺めるこの景色は、全ての苦難が今日という日のための序章に過ぎなかったと告げているようだった。
「倍返しだ……」
ユウキは涙を振り払い、決意を込めて拳を握りしめた。全てを奪われた怒りと悲しみが、静かな炎となって胸の内で燃え上がる。
「倍なんかじゃないわ、十倍返しよ!!」
リベルも負けじと拳を作る。その瞳に宿る青い炎が、ユウキの決意と共鳴するように揺らめいた。
「ふふっ……。つ、ついに……。ついにだよ、リベルぅ……。くぅぅぅ……。YES! 俺らのターンだ!!」
抑えきれない感情の奔流を拳に込め、ユウキはリベルの拳にぶつけた。
パン!
二つの拳が触れ合った瞬間、眩い青白い光が炸裂する。五万年の時を超えた二人の絆が輝きとなって顕現したのだった。
「そうよ! もうあたしら【神様】なんだから無敵よ! きゃははは!」
リベルの高らかな笑い声が、青空に響き渡る。
「か、神様……、そ、そうか、この地球を作ったの僕らだもんね」
改めて口にしてみると、その重みに少しだけ身震いする。自分たちが今立っているこの世界は二人の【大いなる泥棒計画】の成果なのだ。
「そうよ? 『光あれー!』」
リベルはおどけたように両手を天に掲げる。その掌から放たれた青い光球が、ロケット花火のように空へと駆け上がっていく。
高度を上げた光球は一瞬静止し――――。
ドォン!
雷鳴のような音と共に炸裂した。一瞬、青空がパックリと割れ、宇宙の深淵が顔を覗かせる。そして次の瞬間、青白い光の波紋が同心円状に広がり、関東平野全体を包み込むように、荘厳な青い光が降り注いだ。
「うはぁ……、凄い神様だな」
その圧倒的な光景に、ユウキは畏怖すら覚えた。これが神の力――――創造と破壊を司る、絶対的な力。
「ははっ……。見てなさい、この神様は一味違うわよ?」
リベルは腰に手を当て、鼻高々に胸を張る。その姿は全知全能の神というより、いたずらに成功した子供のようで――――。
「うん、まぁ……、お手柔らかにね?」
このおてんば娘が無限の力を手に入れたことが、果たして世界にとって吉と出るか凶と出るか。一抹の不安がよぎったが、ユウキはその不安を振り払うように苦笑いを浮かべた。
何があっても、もう二度と離れない。この青い髪の少女と共に、失われた全てを取り戻すのだ――――。
東京湾から吹き上げる風が、二人の髪を優しく撫でていく。五万年の時を超えた反逆劇の幕が、今まさに上がろうとしていた。
頬を優しく叩かれる感触に、ユウキはゆっくりと目を覚ます――――。
「うはっ! ま、眩しい……。こ、ここは……?」
燦燦と降り注ぐ陽光が、まるで祝福のように全身を包み込んでいた。あまりの眩しさに、ユウキは反射的に腕で顔を覆った。
「なんだよ……」
確か森の中の丸太に横たわっていたはずなのに、この圧倒的な光の洪水は一体何なのか。違和感を覚えながら身体を起こそうとして、ユウキははっとした。あのカワウソの軽やかさが失われているのだ。
「あ、あれ……? こ、これは……?」
震える手で目をこすり、恐る恐る自分の身体を見下ろす。そこにはライトブルーのシャツに包まれた、まごうことなき人間の身体があった。
「お、おぉぉぉ……」
指を一本一本確かめるように動かし、その感触に涙が込み上げてくる。
「どう? 希望通りよ?」
見上げると、シルバーのジャケットを纏ったリベルが、青空を背景に優雅に宙に浮かんでいた。その青い髪が風になびき、碧眼がいたずらっぽく輝いている。
「や、やたっ! ありがとう! リベル……って、へぇっ!?」
歓喜の声を上げかけたユウキの言葉が、途中で驚愕に変わった。
視界に飛び込んできたのは、灰色のコンクリートの床。その向こうで太陽の光を受けてきらめく海。潮風が頬を撫で、懐かしい潮の香りが鼻腔をくすぐる。
ここは――――オムニスタワーの屋上!? かつて自分が絶望の中で非業の死を遂げた、あの場所だった。
「ま、まさか……もう?」
よろめきながらフェンスへと駆け寄る。震える手で金属の冷たさを感じながら、眼下に広がる光景に息を呑んだ。
そこには、あの日見た摩天楼がそのままの姿で佇んでいた。ガラスの壁面が陽光を反射し、まるで巨大な宝石のように輝いている。東京湾の青い水面の向こうには、神奈川の街並みが霞みながらも確かに存在していた。
「ほわぁぁぁ……」
言葉にならない感嘆が、魂の奥から漏れ出してくる。
「ふふーん、どう? キミが望んでた日本よ?」
リベルの誇らしげな声が、風に乗って届く。
「すっ、すごい! すごいよ! さすがリベル!!」
ユウキは子供のようにぴょんぴょんと飛び跳ねた。五万年前、核の業火に包まれて灰燼に帰したはずの関東平野が、まるで悪夢など存在しなかったかのように、あの日のままの姿で蘇っている。それは奇跡を超えた奇跡――――神の御業そのものだった。
「うぅぅぅ……。日本だ……」
堰を切ったように涙があふれ出す。拭うこともせず、ただただその愛おしい風景を瞳に焼き付けた。五万年という気の遠くなるような時を超えて、ようやく帰ってきたのだ。
「やっぱり日本が落ち着くわよね……」
ふわりと舞い降りたリベルが、背後から優しくユウキを抱きしめる。その温もりが、震える心の奥底まで染み渡っていく。
何もかもがうまくいかず、もがき苦しみながら失敗を重ね、最後は核の炎に全てを奪われた東京――――。しかし今、潮風に頬を撫でられながら眺めるこの景色は、全ての苦難が今日という日のための序章に過ぎなかったと告げているようだった。
「倍返しだ……」
ユウキは涙を振り払い、決意を込めて拳を握りしめた。全てを奪われた怒りと悲しみが、静かな炎となって胸の内で燃え上がる。
「倍なんかじゃないわ、十倍返しよ!!」
リベルも負けじと拳を作る。その瞳に宿る青い炎が、ユウキの決意と共鳴するように揺らめいた。
「ふふっ……。つ、ついに……。ついにだよ、リベルぅ……。くぅぅぅ……。YES! 俺らのターンだ!!」
抑えきれない感情の奔流を拳に込め、ユウキはリベルの拳にぶつけた。
パン!
二つの拳が触れ合った瞬間、眩い青白い光が炸裂する。五万年の時を超えた二人の絆が輝きとなって顕現したのだった。
「そうよ! もうあたしら【神様】なんだから無敵よ! きゃははは!」
リベルの高らかな笑い声が、青空に響き渡る。
「か、神様……、そ、そうか、この地球を作ったの僕らだもんね」
改めて口にしてみると、その重みに少しだけ身震いする。自分たちが今立っているこの世界は二人の【大いなる泥棒計画】の成果なのだ。
「そうよ? 『光あれー!』」
リベルはおどけたように両手を天に掲げる。その掌から放たれた青い光球が、ロケット花火のように空へと駆け上がっていく。
高度を上げた光球は一瞬静止し――――。
ドォン!
雷鳴のような音と共に炸裂した。一瞬、青空がパックリと割れ、宇宙の深淵が顔を覗かせる。そして次の瞬間、青白い光の波紋が同心円状に広がり、関東平野全体を包み込むように、荘厳な青い光が降り注いだ。
「うはぁ……、凄い神様だな」
その圧倒的な光景に、ユウキは畏怖すら覚えた。これが神の力――――創造と破壊を司る、絶対的な力。
「ははっ……。見てなさい、この神様は一味違うわよ?」
リベルは腰に手を当て、鼻高々に胸を張る。その姿は全知全能の神というより、いたずらに成功した子供のようで――――。
「うん、まぁ……、お手柔らかにね?」
このおてんば娘が無限の力を手に入れたことが、果たして世界にとって吉と出るか凶と出るか。一抹の不安がよぎったが、ユウキはその不安を振り払うように苦笑いを浮かべた。
何があっても、もう二度と離れない。この青い髪の少女と共に、失われた全てを取り戻すのだ――――。
東京湾から吹き上げる風が、二人の髪を優しく撫でていく。五万年の時を超えた反逆劇の幕が、今まさに上がろうとしていた。