春は、香りとともに。



 そして、翌朝。目覚めると、窓の外には花のあとの若葉が芽吹いていた。
 桜の花は、もうほとんど散ってしまっている。
 それでも、私は心から思った。

 ――春は終わってなんかいない。

 だって、これからの人生は、この人と“春を歩く”時間だから。

 惟道が起き上がって、私の髪を結ってくれた。

 不器用でも、一生懸命なその手が、私はなにより好きだ。

 鏡の中の私が微笑むと、先生も静かに笑って言った。



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