春は、香りとともに。



 翌朝。
 朝日の柔らかい光が部屋を満たし、雨は上がっていた。

 惟道は昨日の自分の姿を思い返し、少し恥ずかしそうに目を伏せた。


「昨夜は、迷惑をかけてしまい、申し訳ありませんでした」


 志野子は静かに首を振る。


「いいえ、先生が無事で何よりです」


 そのとき、惟道が小さな声で言った。


「志野子……」


 その呼びかけに、志野子の頬はまた一層赤みを帯びる。

 ただの名前。
 でも、その響きは彼の心の距離を確かに縮めた。

 惟道は続ける。


「これからは、もっとあなたに頼りたい。……私だけでなく、私たちとして」


 志野子は涙を堪えながら、優しく微笑んだ。

 そう、ふたりは少しずつ、新しい一歩を踏み出していた。
 


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