その恋、連載にしてやるよ〜人気作家に溺れていくなんて、聞いてません〜

第2章 恋愛小説のために、恋をしろ?

あの日はただの打ち合わせのはずだった。

でも、あんなに優しくされたのは初めてで、私の中で何かが確かに揺れた。

“これは仕事”って何度も言い聞かせていたのに――

「そういう男が実際に現れたら、どうするの?」

神堂先生のその言葉が、ずっと胸に刺さっている。

私、本当に、恋に飛び込めるんだろうか。

ぼんやり考えていた夜、社用スマホに通知が届いた。

【今から、バー・レステルに来て】

「……今から⁉」

時計を見ると、もう22時を過ぎていた。

【来ないと、執筆しないよ】

ひぃぃぃぃ!

私は急いでコートを羽織り、財布とスマホだけを握りしめて外に飛び出した。

タクシーの中で心臓がバクバクしていた。

これは仕事だ。打ち合わせだ。……打ち合わせの、はず。

そして数十分後、バーの扉を押し開けると、すでに彼はいた。

「はぁ、はぁ……」
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