相棒をS級勇者に奪われた俺、スキル【力の前貸し】で勇者を破滅へ導く!~全てを負債地獄に叩き落とし、新たな魔王として君臨する!

第10話 魔力の中抜き

「魔力が600?」

唐突な情報に、思わず耳を疑う。
おかしい。
今の自分にしては、多すぎる魔力。
数分前に確認したときは、270しかなかった。
この短時間で2倍以上になるのは、あり得ない。

......もともと600近い魔力があった。
それが表示されていなかった、と考える方が自然。

つまり、600は隠された魔力。
......不思議とその出所には心当たりがある。

「十中八九、元本のおかわりだろうな」

おそらく、それが蓄積した結果だ。

「まさか、スキルが魔力を中抜きしていたとは」

保有スキルが魔力を搾取――
そしてスキルのランクアップ。

「.....さて、中抜きの成果を確認してみるか」

ステータスを開く。

―――――――

リザヤ




ポイント残量
MP 255/283(+250)
HP 300/345(+245)




スキル:力の前貸し

ランク1:複数の対象に付与可能(new! バンスズ or リースズ)
ランク1:前借りと前貸しの同時使用可(new! リース&バンス)
ランク2:....................................................
ランク2:....................................................



―――――――

「...割とバランスの取れた設計だな」

スキルによる中抜きには、おそらく2つの目的がある。

1つは、弱点の補填。
MPやHPは通常、レベルアップで増える。
つまり前貸しのような、魔力を集めるだけでは増やせない。
そこを中抜きした魔力で補っているのだろう。
魔力をどう変換したかは不明だが。

2つ目は、能力の開拓。
スキルランクが上がることで、新たな力が解放される。
きっと今後も、ランクに応じて力が増す。
ポイント消費と同様に、魔力を対価として。

「...間接的にでも強くなれるのなら、中抜きもやむなし、か」

スキルの仕組みが、少しわかってきた気がする。
前借りは自分に、前貸しは相手に“元本のおかわり”が降りかかる。

スキルの代償を払うのは、自分か相手。

この能力は毒に近い。
使えば誰かが苦しむ設計になっている。
扱いを誤れば、自らを滅ぼすことにもなる。

だが、この毒は――復讐相手(あいつら)にも届くかもしれない。
天にかざした手を握りしめ、改めて誓う。

相棒を殺した者たちを、必ず葬ると。

――――――――――――――

「ここは……」

あたり一面、真っ白な世界。
目の前には1体のモンスター。
白くふさふさした毛並みに、つぶらな瞳。

「……フォン」

ありえない光景。
いるはずのない存在。
夢だと気づくのに、時間はかからなかった。

フォンは、もうこの世に――

非情な現実に膝をつく。

「……クォウ」

フォンが飛びつき、顔を舐めてくる。

――ああ
こんなふうに、以前も慰めてくれた。

追放され、皆に見放されたとき。
ダンジョンで傷だらけになったとき。

どんな時もそばにいてくれた。
その存在が、生きる力をくれた。
苦しみを吹き飛ばすほどに。
今こうして生きているのは、きっとフォンのおかげ。
もし、いなければ――きっと、俺はもう…。

艶やかな毛並みに手をやると、フォンは気持ちよさそうに身を預ける。

「ありがとうな。ずっと隣にいてくれて」

フォンへの恩は、生涯をかけて返すはずだった。
だが――
その夢は、もう叶わない。

だから、せめて……
せめて……!

「敵討ちだけは、必ず果たす」

――そこで夢から覚めた。

なぜだろうか。
夢の中のフォンの温もりが、まだ残っている気がした。

「――――」

起き上がり、周囲を見渡す。
洞穴の中は、昨夜と違ってわずかに明るい。

「……?」

足を踏み出した瞬間、何か硬いものに触れた。

「……これは……」

落とし物だろうか。
地面にポーションが転がっていた。
拾い上げて確認する。

「…まさか」

紫色のポーション。

通常のポーションは回復薬として使われる。
だが、紫色はその逆。
中身は致死性の毒が入っていて、暗殺に使われる。

手軽に毒を盛れるうえ、使用者の特定も難しい。
そのせいで、かつては毒殺事件が頻発した。
俺の周囲でも同様で、常に神経をすり減らしていた。

しかし、国王の暗殺を機に、毒物の所持は禁止される。
そして、今では世界中で製造・販売・所持・使用すべてが重罪になった。

「そんな物騒な代物が、なぜここに……」

毒ポーションは持っているだけで極刑。
今では入手手段も、裏社会を通さないと不可能だ。
しかも多額の金を積まなければならない。

だから、これを落とした人物は相当ないわくつきなのだろう。

目を凝らし、書かれた文字に着目する。
それにしても、このポーション――

「……文字が滲んでるな」

だが、まだ読める程度のもの。
つまり、文字を読めなくするような意図的な処理ではないということ。
恐らく手汗....で滲んだものだ。
相当長く握りしめていたに違いない。

容器の中は満たされており、未使用と判断できる。

「……?」

戻そうと下を見ると――
桃髪色の髪が落ちていた。
長さからして、おそらく女性のもの。

ということは、このポーションの持ち主は――桃髪の女?

「……いや、まだ断定はできないな」

パキッ、バキッ――!

突如、外から誰かが踏む音が響いた。
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