相棒をS級勇者に奪われた俺、スキル【力の前貸し】で勇者を破滅へ導く!~全てを負債地獄に叩き落とし、新たな魔王として君臨する!
第12話 謎多き美女
思わず息を呑んだ。
スッと通った鼻筋に、切れ長の美しい目。
瞳はエメラルド色で、まるで宝石のようだ。
透き通る白い肌に、滑らかな曲線を描く腰のくびれ。
さらしのように巻かれたタオルからは、大きな膨らみが窮屈そうに主張していた。
誰もが二度見してしまうような光景。
だが、俺が目を奪われた理由は、それだけではなかった。
背中にはコウモリのような翼。
尻尾の先は矢じりのようなスペード型。
そう――淫魔の特徴だ。
そして何より、俺の心をざわつかせたのは、
その淫魔が莫大な魔力を放っていたこと。
今の差では、天地がひっくり返っても勝てない。
ごくり。
唾を飲み込み、緊張を押し殺す。
――幸運なことに、こちらの存在にはまだ気づいていないようだ。
なら、今のうちに音を立てず――
その瞬間。
彼女の視線が、遠くからこちらへ向けられた。
目が合う。
無表情にもかかわらず、整った顔立ちが冷たい印象を強めている。
(気づかれたか。なら、もう逃げられない。動きを見て、隙を突くしかない!)
一挙手一投足に集中しなければ。
だが、目を開け続けることはできない。
俺は一度、瞬きをした。
ほんの一秒ほどだった。
瞼を開けると――
黒い翼も、鋭い尻尾も消え、ただの人間の姿に戻っていた。
魔力の気配も感じられない。
「あ、あの……お邪魔でしたよね? ご、ごめんなさい、すぐ退きますので!」
慌てた様子で滝つぼから離れていく。
命を賭けた戦闘を覚悟していただけに、拍子抜けだった。
「まぁ……命拾いしたから良しとするか」
緊張が一気にほどけたせいか、腹が鳴った。
そういえば、王城での最悪な食事以来、何も口にしていない。
「よし。飯にするか」
滝つぼにいる今、獲物は魚に決まりだ。
▽
「……ごちそうさま」
食事を終えた俺は休憩のため、洞穴の方へと戻っていた。
歩きながら、今後の方針を考える。
まずは負債の返済。
返済すべき魔力は267に対し、現在の所持は515。
全額返済しても、魔力は248残る計算になる。
それだけあれば、この森の魔物に対処できるはずだ。
足を止める。
「ステータス」
表示されたプロンプトの「負債元本」の項目に目を通す。
……確か返済には「リペイメント」と唱えればよかったな。
「リペイメント」
《現在、リザヤの負債元本の魔力は200です。返済量を指定するか、完済を希望の場合は“フルペイメント”と唱えてください》
「フルペイメント」
唱えた瞬間、体内から魔力が流れ出ていく。
《魔力の元本を完済しました。ただし、負債全体の完済は、今日の利子支払い後に完了します》
利子の支払いは日付が変わる直前。
つまり、今は待つしかない。
これで、返済に関してやるべきことはすべて終えた。
次に考えるべきは――
追手を薙ぎ払える力を、どう身につけるかだ。
俺は亡命者。
たとえ他国に逃れても、追手が潜んでいる可能性は高い。
出会えば戦うしかなく、負ければ捕らえられて処刑される。
リアディスやシタールへの復讐も果たせなくなる。
今が、力を蓄える最大のチャンス。
人の目が届かないこの魔境で、どれだけ強くなれるかが運命を左右する。
ただ、前貸しだけでは足りない気がした。
……スキルの使い方も磨いておくか。
その方が奴らを、完璧に殺せるはずだから。
「……さて、どう磨くか」
ステータスの「スキル」欄に目を向ける。
以前、スキルがランクアップした際に、新たな能力を二つ習得していた。
「……ん?」
改めて見ると、そのうちの一つに疑問が浮かぶ。
―――――――
リザヤ
・
スキル:力の前貸し
ランク1:バンスズorリースズ
複数対象への付与可能
ランク1:リース&バンス
前借りと前貸しの同時使用可能
ランク2:……
・
―――――――
「貸し借りの同時使用……どういう意味だ?」
複数対象への付与はイメージできるが、同時使用のほうはよくわからない。
試してみるか。
辺りを見渡す。
だが――
「…………」
魔物の姿は見当たらなかった。
仕方ない、洞穴に戻るか。
疲れがどっと出てきたので、そこで休息を取ることにした。
再び、歩き出す。
そして、目的の洞穴が見え始めた頃――
「いいだろっ!ちょっとぐらいよぉ!」
「んだべ!少し触るくらい減るもんじゃねぇべさ!」
「やっ、やめてください……!」
先ほどの美女が、男二人に絡まれていた。
「あっ!? あなたは……」
彼女が俺に気づく。
「ああん? なんだこいつ? この女の知り合いか?」
「邪魔するってんなら、容赦しねぇぞ!」
……おかしい。
あれほどの魔力を持っていた彼女が、なぜ対処できない?
「シカトしてんじゃねぇぞゴラァ!」
「兄貴、こいつ分からせてやるべ!」
俺は両手を挙げ、降参のポーズを取る。
「待ってくれ。俺は知り合いでもなんでもない。邪魔しないから見逃してくれ」
「だとよ、どうするべ?」
「ぷはっ、だっせぇ~!」
男が俺を見て笑う。
「まあ、こんな奴が俺たちに何かできるわけねぇか。通っていいぜ」
「恩に着る」
彼女の目が俺を見つめる。
諦めと恐怖が入り混じった、複雑な表情だった。
「ふん。とんだ邪魔が入ったな。二度とこんなことが起きないよう、茂みに連れてくぞ!」
「おう!了解だべ!」
男たちは彼女の細い腕を引っ張り、茂みに放り込む。
「おい、悲鳴が出たら厄介だ。一旦気絶させてから楽しもうぜ」
「おぉ、いいアイデアだべ」
気絶という言葉が聞こえた途端、茂みの葉が激しく揺れた。
必死に抵抗しているのがわかる。
「ぐっ!? コイツ、急に暴れやがって……このっ! 大人しくしろ!!」
鈍い音が響いた。
スッと通った鼻筋に、切れ長の美しい目。
瞳はエメラルド色で、まるで宝石のようだ。
透き通る白い肌に、滑らかな曲線を描く腰のくびれ。
さらしのように巻かれたタオルからは、大きな膨らみが窮屈そうに主張していた。
誰もが二度見してしまうような光景。
だが、俺が目を奪われた理由は、それだけではなかった。
背中にはコウモリのような翼。
尻尾の先は矢じりのようなスペード型。
そう――淫魔の特徴だ。
そして何より、俺の心をざわつかせたのは、
その淫魔が莫大な魔力を放っていたこと。
今の差では、天地がひっくり返っても勝てない。
ごくり。
唾を飲み込み、緊張を押し殺す。
――幸運なことに、こちらの存在にはまだ気づいていないようだ。
なら、今のうちに音を立てず――
その瞬間。
彼女の視線が、遠くからこちらへ向けられた。
目が合う。
無表情にもかかわらず、整った顔立ちが冷たい印象を強めている。
(気づかれたか。なら、もう逃げられない。動きを見て、隙を突くしかない!)
一挙手一投足に集中しなければ。
だが、目を開け続けることはできない。
俺は一度、瞬きをした。
ほんの一秒ほどだった。
瞼を開けると――
黒い翼も、鋭い尻尾も消え、ただの人間の姿に戻っていた。
魔力の気配も感じられない。
「あ、あの……お邪魔でしたよね? ご、ごめんなさい、すぐ退きますので!」
慌てた様子で滝つぼから離れていく。
命を賭けた戦闘を覚悟していただけに、拍子抜けだった。
「まぁ……命拾いしたから良しとするか」
緊張が一気にほどけたせいか、腹が鳴った。
そういえば、王城での最悪な食事以来、何も口にしていない。
「よし。飯にするか」
滝つぼにいる今、獲物は魚に決まりだ。
▽
「……ごちそうさま」
食事を終えた俺は休憩のため、洞穴の方へと戻っていた。
歩きながら、今後の方針を考える。
まずは負債の返済。
返済すべき魔力は267に対し、現在の所持は515。
全額返済しても、魔力は248残る計算になる。
それだけあれば、この森の魔物に対処できるはずだ。
足を止める。
「ステータス」
表示されたプロンプトの「負債元本」の項目に目を通す。
……確か返済には「リペイメント」と唱えればよかったな。
「リペイメント」
《現在、リザヤの負債元本の魔力は200です。返済量を指定するか、完済を希望の場合は“フルペイメント”と唱えてください》
「フルペイメント」
唱えた瞬間、体内から魔力が流れ出ていく。
《魔力の元本を完済しました。ただし、負債全体の完済は、今日の利子支払い後に完了します》
利子の支払いは日付が変わる直前。
つまり、今は待つしかない。
これで、返済に関してやるべきことはすべて終えた。
次に考えるべきは――
追手を薙ぎ払える力を、どう身につけるかだ。
俺は亡命者。
たとえ他国に逃れても、追手が潜んでいる可能性は高い。
出会えば戦うしかなく、負ければ捕らえられて処刑される。
リアディスやシタールへの復讐も果たせなくなる。
今が、力を蓄える最大のチャンス。
人の目が届かないこの魔境で、どれだけ強くなれるかが運命を左右する。
ただ、前貸しだけでは足りない気がした。
……スキルの使い方も磨いておくか。
その方が奴らを、完璧に殺せるはずだから。
「……さて、どう磨くか」
ステータスの「スキル」欄に目を向ける。
以前、スキルがランクアップした際に、新たな能力を二つ習得していた。
「……ん?」
改めて見ると、そのうちの一つに疑問が浮かぶ。
―――――――
リザヤ
・
スキル:力の前貸し
ランク1:バンスズorリースズ
複数対象への付与可能
ランク1:リース&バンス
前借りと前貸しの同時使用可能
ランク2:……
・
―――――――
「貸し借りの同時使用……どういう意味だ?」
複数対象への付与はイメージできるが、同時使用のほうはよくわからない。
試してみるか。
辺りを見渡す。
だが――
「…………」
魔物の姿は見当たらなかった。
仕方ない、洞穴に戻るか。
疲れがどっと出てきたので、そこで休息を取ることにした。
再び、歩き出す。
そして、目的の洞穴が見え始めた頃――
「いいだろっ!ちょっとぐらいよぉ!」
「んだべ!少し触るくらい減るもんじゃねぇべさ!」
「やっ、やめてください……!」
先ほどの美女が、男二人に絡まれていた。
「あっ!? あなたは……」
彼女が俺に気づく。
「ああん? なんだこいつ? この女の知り合いか?」
「邪魔するってんなら、容赦しねぇぞ!」
……おかしい。
あれほどの魔力を持っていた彼女が、なぜ対処できない?
「シカトしてんじゃねぇぞゴラァ!」
「兄貴、こいつ分からせてやるべ!」
俺は両手を挙げ、降参のポーズを取る。
「待ってくれ。俺は知り合いでもなんでもない。邪魔しないから見逃してくれ」
「だとよ、どうするべ?」
「ぷはっ、だっせぇ~!」
男が俺を見て笑う。
「まあ、こんな奴が俺たちに何かできるわけねぇか。通っていいぜ」
「恩に着る」
彼女の目が俺を見つめる。
諦めと恐怖が入り混じった、複雑な表情だった。
「ふん。とんだ邪魔が入ったな。二度とこんなことが起きないよう、茂みに連れてくぞ!」
「おう!了解だべ!」
男たちは彼女の細い腕を引っ張り、茂みに放り込む。
「おい、悲鳴が出たら厄介だ。一旦気絶させてから楽しもうぜ」
「おぉ、いいアイデアだべ」
気絶という言葉が聞こえた途端、茂みの葉が激しく揺れた。
必死に抵抗しているのがわかる。
「ぐっ!? コイツ、急に暴れやがって……このっ! 大人しくしろ!!」
鈍い音が響いた。