相棒をS級勇者に奪われた俺、スキル【力の前貸し】で勇者を破滅へ導く!~全てを負債地獄に叩き落とし、新たな魔王として君臨する!

第13話 共通点

茂みの方から鈍い音が響いた。

「ぐはっ!?」
「大丈夫か、アニキ!」

「この女、とんでもねぇ力を隠してやがった」
「こいつ、只者じゃねぇべ」

二人組がじりじりと後ずさる。

「今だ、逃げるぞ!」
「りょ、了解だべ~!」

男たちは全速力で逃げ去った。
俺はその様子を見届け、再び歩き出す。

「あ、あのっ!」

後ろから声がかかる。

……気づかれたか。

「助けてくださり……本当にありがとうございました」

茂みから桃髪の美女が現れ、丁寧に頭を下げる。
ちなみに、一枚の葉が彼女の髪に乗っていた。

「きっと、あなたですよね。私に魔力を分けてくださったのは」

どうやら【|《力の前貸し》】で、魔力を付与していたのがバレたらしい。

「あなたは私の命の恩人です!」

「いえ、大したことはしていません。....揉め事に、裏からの魔力援助という形でしか立ち向かなかったのですから」

「そんなこと……気にしないでください。私なんかを助けてくださったことに、変わりはありませんから」

それと――と、彼女は続ける。

「私にも……その、ため口で話してもらって大丈夫です。恩人に気を使われると、かえって落ち着かないので」

まずいな。
彼女が俺に恩義を感じているのだとしたら……。

俺は亡命者だ。
俺が回りくどい助け方をしたのは、人を避け誰かを巻き込まないため。
それなのに、こうして印象を残すのは望ましくない。

ならば――
会話に付き合いながらも、自然な形で距離を取ろう。

「……わかった。じゃあ、遠慮なくそうさせてもらうよ」

「ありがとうございます」

「でも、命の恩人ってのは大げさだ。俺が何もしなくても、きっと助かってただろうし」

「……え、えっと。どうしてそう思われたんですか?」

「あんたと最初に会ったとき、相当な魔力を感じたから」

俺と目を合わせた直後、彼女の魔力は消えた。
慌てて隠したということは、他人に魔力量を悟られたくなかったのだろう。

相手が触れられたくない話題に、あえて踏み込む。
これで、距離を置いた方がいいと判断するはずだ。

「あ、あの。やっぱり、気づかれてたんですね」

「まぁ、うん。……だからこそ疑問がある」

彼女の不安げな目。
明かな動揺が見て取れる。

「さっき、危険が迫ってたのに魔力を使わなかった理由。それが知りたい」

「その……私、自分の魔力を使えなくて。あはは……あなたの魔力は使えたのに。自分のは引き出せないなんて、変ですよね」

彼女は胸の前で指を組み、エメラルド色の瞳を伏せた。

「莫大な魔力を感じたとき、今のあんたとは別の姿だった」

「……」

「……もしかして、その姿じゃないと魔力が使えなかったりするのか?」

こくりと頷く。
そのとき、髪についていた葉がひらひらと落ちた。

「私の本当の姿は、サキュバスらしいんです」

「……らしい?....ってことは、そのときの記憶は」

「……ありません」

なるほど。
それなら、出会ったときに感じた雰囲気と違っていても納得できる。
人格まで変わってしまうのなら。

あのとき感じた、凍りつくような視線。
きっと、あれがサキュバスとしての人格なのだろう。

「ただ、人の姿でもサキュバスの力は使えてしまって……」

一見すると便利そうなのに、表情は暗い。

「困ったことに、その能力は勝手に発動してしまうんです……」

サキュバスの力が暴走して困ること――

「まさか、さっきの男たちとの騒動も……」

「はい。私の能力が暴発してしまったせいです」

サキュバスの代表的な能力、誘惑。
それが暴発しているのだろうか。

……いや、待て。
それなら、なぜ俺はその影響を受けなかった?

「能力にかからなかった奴っていたのか?」

「はい、少数ですが。ただ……皆さん、勇者や賢者と呼ばれている方たちばかりです」

俺も一応、勇者の肩書きがある……
それが平気な理由か?

「でも、それはあくまで例外なんです。ほとんどの男性は、私のせいで人生を狂わせてしまいました……。逃げ込んだ村でも、男性を魅了してしまって……パートナーとの関係を破壊しました。それも一人だけじゃなく、村中の男性が……最終的には村の存続の危機にまで……」

抑えていた感情があふれたのか....。
彼女の口調は、次第に早口に。
まるで懺悔するように、過去を語り続ける。

「全部、私のせいなんです。私がいるだけで、周囲の人たちが不幸になる。だから、一人になろうって思ったんです」

「わ、悪い。辛い記憶を思い出させてしまって」

ハッとしたように顔を上げる。

「私の方こそ、すみません。つい、自分語りしてしまって」

「もしかして、魔境の森に来たのも、一人になるためか?」

「え、えっと……それも理由の一つです」

どこか歯切れの悪い言い方。
他にも事情がありそうだ。
逃亡していた村の話もあったし、
何より、ポーションがあった洞穴の近くで再会した。

……あの毒ポーションを落としたのは、彼女の可能性が高い。

この女……俺と同じく、訳ありだ。

「えっと……あなたは、どうして魔境の森に?」

ついに耐えきれなくなったのか、彼女の方から聞いてきた。

「ある国からの亡命中でな。人目につかないルートで国境を抜けたかったんだ」

「確かに、魔境の森は亡命に適した道かもしれませんね」

納得したように頷く。

「……私たち、状況がよく似てますね」

少し嬉しそうに微笑む美女。

「あのっ。助けていただいたお礼なんですが……私が森の出口まで案内するというのは、どうでしょうか?」

俺の返答は――
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