相棒をS級勇者に奪われた俺、スキル【力の前貸し】で勇者を破滅へ導く!~全てを負債地獄に叩き落とし、新たな魔王として君臨する!

第2話 片鱗

俺は、兵士の一太刀を交わす。
そして、すぐさま自分も剣を敵の首に。

「ぐっ――」

兵士の斬られた首筋から血が舞った。

「グアウ!!」

フォンが体当たりで兵士を吹き飛ばす。

「なんだ!?こいつら…雑魚じゃなかったのか」

「いや、最初の二人が弱すぎただけだ。全員でかかれば勝てる!」

「かかれ!!」

「「うおおおおおお!!!」」

俺たちは攻撃を避けつつ、カウンターを叩き込む。
そのたびに敵の声が消える。

「ガアウゥゥゥ!!」

フォンの咆哮に、兵士たちが怯む。

その隙に、次々と首をはねる。
俺と相棒の連携は完璧だった。

「はぁ…はぁ…だいたい片付けたか」

「フン。雑魚が手間取らせやがって」

様子をうかがっていたシタールが、ようやく動き出す。

「俺が格の違いを見せてやる」

対峙して、わかる。
S級の規格外さが。

(こいつ…とんでもない魔力だ)

シタールの姿が消えた――!

いや、すでに間合いを詰められていた。

ギィン!!

俺の剣が弾かれる。

「死ねぇ!!」

すかさず首を狙ってくる。

くそっ、やられ――

次の瞬間、大量の血が飛び散る。
だが、それは俺のではなかった。

「ク…オ…ウ」

フォンの血だった。
俺を庇い、身代わりになったのだ。

「......フォン!!」

どうする!?
すぐに手当てしなければ死ぬ。
だが、どう逃れる?

混乱で思考がまとまらない。

「…おい、貴様」

シタールが低く呟く。

「俺の紋章を汚したな」

まずい。
フォンが狙われた。

「フォン!今すぐ離れろ!」

時間を稼ぐため、シタールに飛び掛かる。

だが――

腹に剣が突き刺さった。
鋭い痛み。
全身が金属を拒絶するような感覚。

「ゔぅ…早く…逃げ…ろ……!? ぐわぁ――」

剣が抜かれ、そのまま崩れ落ちる。

「おい、化け物。覚悟はできてるな?」

「ヴクォッ」

フォンが蹴り上げられ、宙を舞う。

「…おい…糞ナルシスト…狙いは俺だろ…フォンには…手を出すな…」

「断る。貴様より先に、こいつを殺す」

やめろ。俺の命ならくれてやる。だから――

「頼む…頼むから……!俺を殺せよ…!なんで…なんでフォンまで――!!それに…S級勇者が…低級モンスター相手に…ムキになるのか…?」

「だからこそだ…」

シタールの体が震える。

「だからこそ、見逃せねぇ!雑魚のくせに、汚しやがって!!」

ドンッ。
鈍い音が響くたびに、フォンの体が転がる。

「貴様の汚ねぇ血のせいで、紋章が台無しだ!」

フォンはもう声も出せない。
かすかに動く耳が、最後の抵抗に見えた。

俺は――見ていることしかできなかった。

(くそっ!!助けなきゃ…!なのに…なんで動けないんだ!!)

乾いた音が続く。
フォンの体が跳ね、地面に沈む。

そして……かすかに震えていた息が、今、止まった。

「………………」

「あれ?経験値入ってる。いつの間に死んだんだ?ちっ、雑魚すぎてサンドバッグにもならねぇのかよ」

……死んだ?

その言葉が理解できないほど、頭が真っ白になる。
だが、じわじわと現実が染み込んでくる。

息が詰まり、肺が空気を拒む。
全身から汗が吹き出す。

……殺す。貴様だけは……どんな手を使ってでも。

《スキル進化の条件クエストを半分達成しました》

……!?

《スキルの一部を開放》

...............!!?
魔力が流れ入ってくる!
横に倒れている兵士から、流入した魔力だ。

力が湧き上がる。
体が、動く!

「よく見たら、こいつの毛皮は高く売れそうだな……」

貴様……。
殺すだけでなく、尊厳まで踏みにじる気か。

俺は、傍らの兵士が落とした短剣を握る。

シタールは俺に背を向け、皮剥ぎに夢中。
今なら、殺せる。

静かに忍び寄る。
あと1メートル。

渾身の力で、胸を突く。心臓のあたりを狙って。

「ぐふ――」

傷口を抉るように短剣を引き抜く。
背後からでも、奴が血を吐いているのがわかる。

シタールが振り返った瞬間――
短剣を、その顔に叩き込む。

「…あ…ああああああああああああああああ!!!!」

どうやら、左目に刺さったらしい。
ざまあみろ。

「てめぇッ!! よくも……この俺の目をッ!!」

ドンッ!!

シタールが怒り狂い、俺の腹を蹴り上げる。
その勢いで、地面に転がった。

(くっ……そ)

まだ、息の根は止めていないのに。
傷を蹴られ、意識が遠のく。

「殺す。すぐにモンスターと同じ場所に――」

「…やめなさい!!」

遠くから駆け寄る足音。
幻か?
意識が途切れる寸前、誰かの――女の声が、耳に届いた。

………………
…………


《スキル進化の条件クエストを八割達成しました》


※追記
次回、多くの読者が予想できない衝撃が待ってます。
ぜひ、お楽しみに
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