相棒をS級勇者に奪われた俺、スキル【力の前貸し】で勇者を破滅へ導く!~全てを負債地獄に叩き落とし、新たな魔王として君臨する!

第3話 その笑みに隠された意図

「――きて……起きて!」

暗闇の中、誰かが呼んでいる。

「起きて!!」

はっと目を覚まし、身を起こす。
周囲にはきらびやかな装飾品が並ぶ。
寝ているベッドも高級そうなもの。
傍らには、金髪の見知らぬ女性がいた。
綺麗なブルーアイを持つ美女だ。

「よかった、生きていて。深手の傷を負ってたから、助からないかと」

肩をおろす女に、尋ねる。

「フォンは!?....フェンリルに似たモンスターはどうなりましたか!!?」

「.....残念ながらもう......」

申し訳なさそうに視線を落とす。

「.....そうですか」

俺はすぐさま立ち上がり、横にあった剣を装着する。

「お世話になりました」

一礼し、部屋を出ていこうとするも――

「待って!」と呼び止められる。

「これから、どうするつもりなの?」

.......そんなの、決まっている。

「相棒の仇を討ちにいきます」

女の表情が曇る。

「馬鹿言わないで。あなた、さっきまで死にかけていたのよ?」

責めるような視線。
助けた相手が、命を軽んじていることに不快感を覚えたのだろう。

「とりあえず、今は座って」

「……わかりました」

素性は不明だが、この人は命の恩人。
従うべきだと判断し、ベッドに腰を下ろす。

「あの」

気になることを尋ねる。

「ここはどこで、あなたは誰ですか?」

「……そういえば、自己紹介がまだだったわね」

女が立ち上がる。

「ここはローシャ王国の王城。そして私がその姫、リアディスよ」

ローシャ王国――
俺を追放した国だ。
それに姫って言ったよな。
...殺すよう命じた王の娘ということか。

「なぜ、俺を助けたんです? 父君とは敵同士のはずなのに」

「私個人として、あなたを見捨てられなかったの」

そう言って、彼女は穏やかに微笑んだ。

「もしかして、疑ってる?」

「失礼ながら……」

頭を下げる。
恩人に対して無礼なのは承知だったが、それでも疑念を拭えない。

「王が俺の入室を許すとは思えませんし、怒り狂っていたシタールをどう説得したのかも」

「確かに父は反対していたわ。でも、何度も頼み込んで、ようやく同意してくれたの」

娘とはいえ、簡単に通るとは思えない。
何か裏があるのでは……。

「それに、シタール君とは仲が良いの。だから、話を聞いてくれたわ」

思わず耳を疑う。
名誉のためにフォンを殺した男が、意見を曲げて従うなど――想像できなかった。

やはり、この姫も信用できない。

「疑いは.....晴れなかったみたいね」

そう言いながら、彼女は何事もなかったように手を叩く。

「あっ、そうだ。医師から伝言があるの」

医師……俺を治療した人物か。

「あなたの回復は異常に早かったって。ただ、そのぶん栄養はしっかり摂るように、とのことよ」

……なるほど。
傷の治りが早いのも、スキルの影響かもしれない。

「だから、今から食事にしましょう?」

「……すみませんが、遠慮します」

フォンが死んだ直後のため、食事などできる気分ではなかった。
それに、敵国の料理を口にするのもリスクがある。

「うーん。でももう、シェフに作らせちゃったし」

リアディスが困ったように考える。

「毒が入っていないって、どう証明すればいいのかしら」

拒絶の仕方が露骨だったかもしれない。
疑っているのが伝わってしまった。

「……私が毒見するのはどう? それなら安心でしょ」

「……分かりました。そこまで言ってくださるのなら、お言葉に甘えます」

彼女の案内で食堂へ向かう。
王族以外に、裕福そうな市民の姿も多い。

「こちらの席よ」

指定されたのは二人用の席だった。
姫が先に料理に口をつけ、「大丈夫でしょ?」と言いたげにこちらを見る。

「いただきます」

「ええ……召し上がれ」

……長く節約生活をしていたせいか、料理がとても贅沢に感じる。
特に目の前の肉は、噛むたびに旨味があふれる。
一口食べると、手が止まらなかった。
抑えていた食欲が一気に噴き出す。

……相棒が死んだというのに。
そんなこと関係なく、体が食べ物を求めていた。

「ふふっ。あなたの食べっぷりを見たら、シェフも喜ぶわ」

姫の微笑みに、何か含みを感じた。

「ごちそうさまでした」

全て平らげ、手を合わせる。

「今日は助けていただいた上に、ご馳走まで……ありがとうございます」

「……ふふっ」

彼女はくすくすと笑い出す。

「そう言ってもらえると、用意した甲斐があったわ」

「すみません、何かおかしなことを……?」

貴族のマナーに反してしまったのだろうか。

「おかしなこと? ……そうね、しいて言うなら。あなたが肉料理を食べる姿が、とても微笑ましかったわ」

「……?」

何かがおかしい。
貧乏人が肉を食べるのが可笑しかった? 
....違う。
姫の目が、まるで――あざ笑うかのようだった。

「まだピンときてないようね。いいわ、教えてあげる」

微笑みながら、ゆっくりと顔を近づける。

「この肉料理の材料はね……」

口元を手で覆い、囁いた。

「あなたの相棒だった肉を使っているのよ」








※追記
次回、覚醒回です。
リザヤが完全覚醒し、そして....
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