相棒をS級勇者に奪われた俺、スキル【力の前貸し】で勇者を破滅へ導く!~全てを負債地獄に叩き落とし、新たな魔王として君臨する!

第27話 救い

◇ルーナ

「あ...あ....あ゛あ゛あ゛あ゛ァ!!」

裂かれた腹に激痛が走る。
そして、血がぼとぼと地面に落ちた。

恐怖のあまり、呼吸のリズムが狂う。
吸って吐いてを繰り返しても、まるで生きた心地がしないのだ。

(早く逃げないと!!)

人の決意とは脆いものだ。
どんなに時間を掛けた決断だとしても、一瞬の恐怖の前では全て崩れ去る。

「あ――――」

この場から離れようとした時、何かを捕まれた。
――髪だった。
余りの勢いに何本かの髪の毛が抜け落ちた。
そのまま後ろから強く引っ張られ、とうとう首根っこを捕まれる。

「!!」

足が地面を浮いた。
私を掴む魔物が、他の仲間たちに見せつけるように高く掲げたのだ。
何とか首を動かし、後ろを振り向くと.....。
魔物の片手に握られた剣が、首に狙いを定めていた。

――あぁ、これが死か。

不思議な感覚だった。
さっきまでは恐怖で頭がいっぱいだったのに対し、死が確定すると妙に冷静になる。

「....良かった。死ぬのが自分で」

最後は安堵し、目を閉じ――

「ファイヤーボール!!」

(..................えっ?)

聞こえてくる言葉と同時に、魔物の断末魔が響き渡る。
そして私を掴んでいた手が離された。

その声は聞こえてはいけない人のものだった。

「おはよう、ルーナ。こんな所で会うなんて奇遇だな」

「――どうして....!!なんで来ちゃったの?」

「どうしてって、決まってんだろ。俺たちはまだお互いに約束を果たしてねぇからだ」

「約束ってこんな時に......!!」

.....駄目だ。
本当はすぐにでも追い返さないといけないのに。
体がこの安堵を手放さない。

「おいおい。そんな気軽に約束なんて交わしたのか?」

目の前の彼は、肩をすくめる。

「まぁ、いいや。俺は約束通り、最後まで護衛するだけだしな」

そう言いながら私の方へと近づいてきた。
だが、私は一気に現実に戻される。
彼は私と一緒に死ぬつもりなのだと察して。

「――出てって」

「ん?今なんて言った?小さくて聞き取れなかったんだが」

「お願いだから出てって!!貴方だけは生きていてほしいの!!」

「....なに勘違いしてんだ。俺は死ぬ気できたわけじゃねぇよ」

そっと体を抱きしめられる。

「....勿論ルーナも死なす気なんてさらさらない」

彼の発する温かい音色に、私の凍り付いた心が溶けていく。

――あぁ
私の決意とは、なんて脆いものだろうか。
どんな決断も、大好きな彼の言葉で全て崩れ去る。

しかし、さっきまでとは違い全身を幸福感が包んでいた。

.....私は悪い女だ。
好きな人が地獄の道を共にすることに、嬉しいと感じてしまったのだから。

  ▽

「はぁ....はぁ..こいつら。倒しても次から次へと、キリがねぇな」

魔物の400体に対し、彼と分身さん達が倒したのは二十体程。
残った大勢の魔物は、私達の周囲を囲む。
まさに四面楚歌。
私達は数の力の前に、苦戦を強いられていた。

「やっぱり一体ずつ相手にすんじゃ勝ち目はねぇぞ」

私と背中合わせにしている彼がそう呟いた。

「......でも、それしか方法は――」

「なぁルーナ。...たしかセンサーって、魔力の特徴を捉えて各個体を識別しているんだよな?」

「....うん、そうだよ。でも、それがどうかしたの?」

「.......もしかしたら、この絶望的な状況も切り抜けられるかもしれねぇ」

彼は振り返り、私に耳打ちをする。

「方法は――――」

.....それは驚愕的なものだった。


◇ビットナイト

メレシスが死んでから日を跨ぎ、もう次の日の朝を迎える。
しかし、魔王軍の四天王ことビットナイトは未だに引きづっていた。

(......おのれ、ヤク。貴様は何としてもこの手で)

はらわたが煮えくり返るような思いでいると、一人の兵士がこちらにやって来る。

「ビットナイト様。メレシス様の埋葬が終わりました」

「......ご苦労。あなたももう休んで良いですよ」

しかし、兵士は下がらなかった。

「あのっ、ビットナイト様。私なんかが埋葬してよろしかったんでしょうか?」

「えぇ、それでいいんです。私の判断ミスで、メレシスをヤクと対峙させてしまったのですから」

「でも」

「一つの命令で部下を殺した。これは紛れもない事実です。だから私には埋葬する資格なんてありませんよ」

兵士の一人は「一人で抱え込まないでくださいね」と言い残し、この場を去る。

「..............」

ビットナイトは大きく息を吐いた。
これから胸が痛むことをしなければならないからだ。
魔王は、軍のほとんどを最終的には殺すよう命じた。
上の命令は絶対的で決して逆らえない。
つまりさっきの部下も、殺す運命に――

「!?」

右手の薬指にはめられた指輪が赤く光った。
これは、侵入者が遺跡に来た合図。

すぐさま翼を羽ばたかせて、空を翔る。
物思いに更けている余裕はなさそうだ。


――――風を切り裂くこと30分

目的の遺跡付近に着地する。
そして、地下への通路を駆け抜け扉の前へ。

急いで開け中に入ると、そこには.....。
《《信じられない》》光景が広がっていた。

「....なんで魔物達が争っている!?」

センサーで統率されているはずの魔物達。
しかし、現在目の前では内乱が勃発していた。
< 27 / 34 >

この作品をシェア

pagetop