相棒をS級勇者に奪われた俺、スキル【力の前貸し】で勇者を破滅へ導く!~全てを負債地獄に叩き落とし、新たな魔王として君臨する!
第28話 星空を夢見て
(ビットナイトがやって来る数十分前)
◇リザヤ
「リース&バンス」
俺は早速、思いついた策を試す。
技の対象は射程距離100m以内の魔物と、ルーナだ。
まずターゲットの全ての魔力をルーナへ前貸し。
そして再び......
「リース&バンス」
今度はルーナの全魔力をターゲットの魔物に移動させる。
つまり――互いの魔力を入れ替えたのだ。
すると......
ルーナに対する魔物達の攻撃がぴたりと止まる。
代わりに、ルーナの魔力を受け継いだ奴に魔物が群がり始める。
「......本当に攻撃対象がすり替わるなんて」
彼女は感嘆の声を上げている。
「でもこんな作戦どうやって思いついたの?」
「ルーナの説明がきっかけだ」
「えっ、私の.......?」
キョトンとした顔で俺を見る。
「センサーは各個体を、”魔力”で識別してると聞いたからな。もし魔力を入れ替えた場合、センサーのかく乱も可能と考えたんだ」
「......すごい。こんな発想、普通思いつかないよ!」
「.....あ、あぁ。.....ありがとう」
自分の能力の根源は、”魔力流動”。
それが魔力を識別できるセンサーにとっては、たまたま天敵だった。
だから運が良いだけなのだが......。
面と向かって褒められると困惑してしまう。
「リース&バンス。リース&バン――」
魔力の入れ替えを分身達にも適用させる。
「ガルッ!!ガウ!!」
その間にも、敵が刃を俺に向けてきた。
目すれすれの所で交わし、すぐさま魔力を”攻撃”に振る。
「グ――――」
拳で渾身の一撃を敵の腹に咬ました。
腹を抱えながら、うずくまる魔物。
対して俺は、再び作業を続ける。
「リース&バンス」
分身達に群がる魔物が、どんどん他の魔物へとターゲットを切り替える。
....しばらく続け、一匹を残しすべての分身の魔力を入れ替えた。
「.....後は俺だけだな」
ざっと周囲を見やる。
まだ正常に作動している敵の数は350体以上。
「力の前貸し」
魔力の大半を無操作の分身に注ぐ。
そして、その分身の召喚を解き閉まう。
現在、手持ちの魔力は400程度。
それを――
「複数対象の前貸し」
350体の魔物に一気に振りまく。
すると、魔物達による大規模な内乱がはじまった。
隣同士のセンサーが作動し、統率は完全に乱れている。
「力の前借」
最後に目の前の魔物の魔力1000を自分の体に入れた。
「これで俺も、センサーの対象外だ」
ほっと一息つく。
「....魔物達が争っているなんて。.....こんな光景初めて」
ルーナが信じられないといった顔をしている。
「!?」
彼女のお腹の方の出血がひどい。
.....急いで止血しなければ。
俺は服の袖を破る。
「ルーナ。ちょっと失礼するぞ」
「....えっ?....あ、うん」
彼女の細いウエストに布を巻き、方結びをする。
それに対し彼女は「ありがとう」と例を言った。
「..................」
しばしの沈黙。
目の前では、誤った対象を攻撃し合う闘いが繰り広げられている。
「.....あの。....貴方は遺跡の場所をどうやって発見したの?」
「ルーナの後ろをオークが尾行したんだ。だから、遺跡までのルートも分かった」
「........そうなんだ」
彼女が顔を俯く。
その表情には、後悔が滲んでいる。
「俺からも質問良いか?」
「...........うん」
「これからルーナはどうするつもりなんだ?....四天王が来てない今なら、まだ逃げ出すチャンスはあるぞ」
彼女の拳が強く握られた。
「.....無駄だよ。私が死なないと、森の出入り口は軍で塞がれたままなんだから」
「.....そうか。それなら、ビットナイトを倒すしかないな」
彼女の顔が咄嗟に上がる。
「そんな!四天王と闘うなんていくら貴方でも殺されてしまう!」
「.....いや、一つだけ勝算がある」
センサーとビットナイトの心理が上手く嚙み合えばの話だが。
「.........そんな都合の良い話なんて....」
「いや命を賭ければ、可能性はゼロではない」
ふっと彼女の肩が俺に寄り掛かる。
「どうして私の為にそこまでしてくれるの?」
「それは――お前の境遇が俺の過去と似てるからだ」
「.........貴方の過去?」
この話は、あまりしたくなかった。
自分がいかに呪われた存在かを明かさないといけないから。
だからこれまで、この過去は誰にもしていない。
――が覚悟を決める。
「俺の名前さ、リザヤっていうんだ」
「.......えっ?」
「....ちなみに名前の意味は、貸したお金に生じるあの利ザヤな」
「..........えっと、その...ご両親が名付けたの?」
ルーナが察したのか、言葉を選び始める。
「いや、両親ではねぇ。俺が生まれて間もなくで死んだからな。だから、孤児院の大人が付けたんだ」
「........そんな。ひどすぎる」
「まぁ.....こんな名前、普通は子供につけたりしないよな。.....だけど、その背景は結構複雑なんだ」
彼女の肩がそっと離れた。
そして、心配するかのような目でじっと見つめる。
「俺の親はさ、町中では有名な闇金だったらしい」
伝聞なのは、後から孤児院の大人に聞いたからだ。
何でも多額の借金で人生を壊されたのだとか。
話を聞く際、仇を見るような目を俺に向けていた....。
「....貸した金を違法なレベルの金利で釣り上げて、回収してたんだとさ。まぁ、だから俺がこの名前を付けられるのも妥当だ」
「......でも、親と貴方は別人だよ」
「ルーナの様な人が多かったら、また違ったかもな。でも町の人々は、親と別人には見なかった」
「........どうして?」
ルーナが理解できないといった顔をする。
「周りが憎しみの受け皿を求めたからだな。そして、その子供は絶好のターゲットになる」
「................」
「だから俺は闇金、利ザヤ野郎の子供としてリザヤと名付けられた」
「そんなの....親だけの問題なのに!なんの罪も無い子供に擦り付けるなんて.....!!」
ルーナは自分のことのように悲しんでいる。
.....彼女も親に振り回され続けた人生だ。
だから他人事のようには思えないのだろう。
「貴方は起伏なく話すけど....。親を憎んでいないの?」
「....そうだな。あまり恨んでねぇかな」
なぜなら、親にも闇金をする理由があったからだ。
父は国の中で最も序列の低い身分。
最下層の者達は、碌な働き場も無く飢えて死ぬことが多い。
だから、親は富を求めて闇金に手を出した。
.....俺はその行為を否定できない。
自分も孤児で、飢えの苦しみはよく知っている。
手を染めてでも、生き残ろうとすることも理解できてしまう。
「悪い、少し話が逸れたな。.....ルーナに伝えたいのは、不幸話じゃなくて”希望”なんだ」
「........えっ?」
「俺はたしかに辛い境遇にいたけど、同時にかけがえのない存在が隣にいてくれたんだ」
それは勿論、相棒のフォンのこと。
「だから苦痛なんて感じねぇし、むしろ毎日が楽しかった」
「そう...だったんだ」
「それで勝手なお世話かもしんねぇけど、ルーナにもかけがえのないのない何かを見つけてほしいんだ」
彼女は全てを諦めるように、暗く俯く。
「......私には無理だよ。ビットナイトが私の命を狙って――」
「だから俺が奴を殺す」
彼女の瞳が大きく見開かれる。
「....そうしたらルーナはこの先、探すことができるだろ?」
俺はフォンのおかげで幸福だった。
対して、ルーナの幸福の対象が人や動物とは限らない。
だが、自分の過去と重ねたからこそ。
彼女が幸せを知らないまま、死ぬなんて見過ごせない。
「.......ありがとう」
ルーナが声を震わす。
「私ね....本当は星空が見たい。それが自分にとってかけがえのないものだから」
彼女は大粒の涙を流しながら、俺に抱き着く。
「......よし。なら尚更、負けらんねぇな」
周囲にいる分身達。
そいつらに視線である”複数の命令”をする。
ビットナイトを殺す、種をまくために。
◇リザヤ
「リース&バンス」
俺は早速、思いついた策を試す。
技の対象は射程距離100m以内の魔物と、ルーナだ。
まずターゲットの全ての魔力をルーナへ前貸し。
そして再び......
「リース&バンス」
今度はルーナの全魔力をターゲットの魔物に移動させる。
つまり――互いの魔力を入れ替えたのだ。
すると......
ルーナに対する魔物達の攻撃がぴたりと止まる。
代わりに、ルーナの魔力を受け継いだ奴に魔物が群がり始める。
「......本当に攻撃対象がすり替わるなんて」
彼女は感嘆の声を上げている。
「でもこんな作戦どうやって思いついたの?」
「ルーナの説明がきっかけだ」
「えっ、私の.......?」
キョトンとした顔で俺を見る。
「センサーは各個体を、”魔力”で識別してると聞いたからな。もし魔力を入れ替えた場合、センサーのかく乱も可能と考えたんだ」
「......すごい。こんな発想、普通思いつかないよ!」
「.....あ、あぁ。.....ありがとう」
自分の能力の根源は、”魔力流動”。
それが魔力を識別できるセンサーにとっては、たまたま天敵だった。
だから運が良いだけなのだが......。
面と向かって褒められると困惑してしまう。
「リース&バンス。リース&バン――」
魔力の入れ替えを分身達にも適用させる。
「ガルッ!!ガウ!!」
その間にも、敵が刃を俺に向けてきた。
目すれすれの所で交わし、すぐさま魔力を”攻撃”に振る。
「グ――――」
拳で渾身の一撃を敵の腹に咬ました。
腹を抱えながら、うずくまる魔物。
対して俺は、再び作業を続ける。
「リース&バンス」
分身達に群がる魔物が、どんどん他の魔物へとターゲットを切り替える。
....しばらく続け、一匹を残しすべての分身の魔力を入れ替えた。
「.....後は俺だけだな」
ざっと周囲を見やる。
まだ正常に作動している敵の数は350体以上。
「力の前貸し」
魔力の大半を無操作の分身に注ぐ。
そして、その分身の召喚を解き閉まう。
現在、手持ちの魔力は400程度。
それを――
「複数対象の前貸し」
350体の魔物に一気に振りまく。
すると、魔物達による大規模な内乱がはじまった。
隣同士のセンサーが作動し、統率は完全に乱れている。
「力の前借」
最後に目の前の魔物の魔力1000を自分の体に入れた。
「これで俺も、センサーの対象外だ」
ほっと一息つく。
「....魔物達が争っているなんて。.....こんな光景初めて」
ルーナが信じられないといった顔をしている。
「!?」
彼女のお腹の方の出血がひどい。
.....急いで止血しなければ。
俺は服の袖を破る。
「ルーナ。ちょっと失礼するぞ」
「....えっ?....あ、うん」
彼女の細いウエストに布を巻き、方結びをする。
それに対し彼女は「ありがとう」と例を言った。
「..................」
しばしの沈黙。
目の前では、誤った対象を攻撃し合う闘いが繰り広げられている。
「.....あの。....貴方は遺跡の場所をどうやって発見したの?」
「ルーナの後ろをオークが尾行したんだ。だから、遺跡までのルートも分かった」
「........そうなんだ」
彼女が顔を俯く。
その表情には、後悔が滲んでいる。
「俺からも質問良いか?」
「...........うん」
「これからルーナはどうするつもりなんだ?....四天王が来てない今なら、まだ逃げ出すチャンスはあるぞ」
彼女の拳が強く握られた。
「.....無駄だよ。私が死なないと、森の出入り口は軍で塞がれたままなんだから」
「.....そうか。それなら、ビットナイトを倒すしかないな」
彼女の顔が咄嗟に上がる。
「そんな!四天王と闘うなんていくら貴方でも殺されてしまう!」
「.....いや、一つだけ勝算がある」
センサーとビットナイトの心理が上手く嚙み合えばの話だが。
「.........そんな都合の良い話なんて....」
「いや命を賭ければ、可能性はゼロではない」
ふっと彼女の肩が俺に寄り掛かる。
「どうして私の為にそこまでしてくれるの?」
「それは――お前の境遇が俺の過去と似てるからだ」
「.........貴方の過去?」
この話は、あまりしたくなかった。
自分がいかに呪われた存在かを明かさないといけないから。
だからこれまで、この過去は誰にもしていない。
――が覚悟を決める。
「俺の名前さ、リザヤっていうんだ」
「.......えっ?」
「....ちなみに名前の意味は、貸したお金に生じるあの利ザヤな」
「..........えっと、その...ご両親が名付けたの?」
ルーナが察したのか、言葉を選び始める。
「いや、両親ではねぇ。俺が生まれて間もなくで死んだからな。だから、孤児院の大人が付けたんだ」
「........そんな。ひどすぎる」
「まぁ.....こんな名前、普通は子供につけたりしないよな。.....だけど、その背景は結構複雑なんだ」
彼女の肩がそっと離れた。
そして、心配するかのような目でじっと見つめる。
「俺の親はさ、町中では有名な闇金だったらしい」
伝聞なのは、後から孤児院の大人に聞いたからだ。
何でも多額の借金で人生を壊されたのだとか。
話を聞く際、仇を見るような目を俺に向けていた....。
「....貸した金を違法なレベルの金利で釣り上げて、回収してたんだとさ。まぁ、だから俺がこの名前を付けられるのも妥当だ」
「......でも、親と貴方は別人だよ」
「ルーナの様な人が多かったら、また違ったかもな。でも町の人々は、親と別人には見なかった」
「........どうして?」
ルーナが理解できないといった顔をする。
「周りが憎しみの受け皿を求めたからだな。そして、その子供は絶好のターゲットになる」
「................」
「だから俺は闇金、利ザヤ野郎の子供としてリザヤと名付けられた」
「そんなの....親だけの問題なのに!なんの罪も無い子供に擦り付けるなんて.....!!」
ルーナは自分のことのように悲しんでいる。
.....彼女も親に振り回され続けた人生だ。
だから他人事のようには思えないのだろう。
「貴方は起伏なく話すけど....。親を憎んでいないの?」
「....そうだな。あまり恨んでねぇかな」
なぜなら、親にも闇金をする理由があったからだ。
父は国の中で最も序列の低い身分。
最下層の者達は、碌な働き場も無く飢えて死ぬことが多い。
だから、親は富を求めて闇金に手を出した。
.....俺はその行為を否定できない。
自分も孤児で、飢えの苦しみはよく知っている。
手を染めてでも、生き残ろうとすることも理解できてしまう。
「悪い、少し話が逸れたな。.....ルーナに伝えたいのは、不幸話じゃなくて”希望”なんだ」
「........えっ?」
「俺はたしかに辛い境遇にいたけど、同時にかけがえのない存在が隣にいてくれたんだ」
それは勿論、相棒のフォンのこと。
「だから苦痛なんて感じねぇし、むしろ毎日が楽しかった」
「そう...だったんだ」
「それで勝手なお世話かもしんねぇけど、ルーナにもかけがえのないのない何かを見つけてほしいんだ」
彼女は全てを諦めるように、暗く俯く。
「......私には無理だよ。ビットナイトが私の命を狙って――」
「だから俺が奴を殺す」
彼女の瞳が大きく見開かれる。
「....そうしたらルーナはこの先、探すことができるだろ?」
俺はフォンのおかげで幸福だった。
対して、ルーナの幸福の対象が人や動物とは限らない。
だが、自分の過去と重ねたからこそ。
彼女が幸せを知らないまま、死ぬなんて見過ごせない。
「.......ありがとう」
ルーナが声を震わす。
「私ね....本当は星空が見たい。それが自分にとってかけがえのないものだから」
彼女は大粒の涙を流しながら、俺に抱き着く。
「......よし。なら尚更、負けらんねぇな」
周囲にいる分身達。
そいつらに視線である”複数の命令”をする。
ビットナイトを殺す、種をまくために。