相棒をS級勇者に奪われた俺、スキル【力の前貸し】で勇者を破滅へ導く!~全てを負債地獄に叩き落とし、新たな魔王として君臨する!

第29話 それでも私は

◇ビットナイト

時は現在に戻る。
ビットナイトは右腕を掲げた。

「”停止せよ”」

薬指にはめられた指輪が、赤く光る。
すると、目の前で繰り広げられていた大乱闘がぴたりと止む。

それを見たビットナイトは、奥底から激しい衝動が沸き起こる。

魔王の命は絶対だ。
たとえ元部下であっても――
魔王が命じたのならセンサーで自我を奪わなければならない。
だから償いとして...せめて彼らの手入れだけは徹底していた。

しかし現在、目の前の彼らは....。
体に深手の傷を負い、今にも倒れそうだった。

ぐつぐつと煮えたぎる黒い衝動。
ここまでの憎しみを抱いたのは初めてかもしれない。

ビットナイトは、仲間だった者達の顔を確認していく。

そして、改めて決意した。
――侵入者を絶対に殺すと




◇リザヤ

俺はルーナを説得した後、作戦の一貫として最下層を目指すことにした。

二階層目に下がると、再び魔物が襲ってくる。
その為、再びリース&バンスで魔力を入れ替えセンサーをかく乱。
魔物が同士討ちさせるように、仕込む。

三階層も全く同じ手口で混乱させ、自分たちは素通りしていく。

そして最下層である、4階層にたどり着く。
そこには、魔物は配置されていなかった。

「.......?」

代わりに、入り組んだ最深部に何かが保管されている。
近づくと――それは本だった。

「.......これが禁書か」

「うん、間違いないよ。幼い頃見た本の柄と一致するから」

本を開く。
中にはルザード一族が編み出したと思われる謎の文字が使われていた。
同時にその本から魔力を感じる。

......これは、もしかしたら――

まず自分の指を口で切り、血というインクを作った。
次に携帯していた地図の紙の裏を広げる。
そして、この本の模写を試す。

しかし――
....駄目だ。書き写せない。
書いた文字が歪んでいく。

「......ん?どうしたルーナ?」

彼女は俺の行動が不可解だったのか、腕に触れてきた。

「.......何してるのかなって」

「...あぁ、仮説を検証してたんだ」

彼女の表情は容量を得ずといった様子。

「本って模写でいくらでも増やせるはずだろ?なのに一つの本を厳重に保管するのは何故かって.....」

「.....あっ、それで貴方は実際に模写を...」

「まぁな。けど、この本自体に魔法が掛かってて、模写はできなかった」

恐らくこの魔法を架けた理由は、禁書が量産できないようにするためだ。
だが、魔法を架けた人物はルザード一族か魔王かは分からない。

そして今回の作戦の命運は、誰が魔法を架けたのかに掛かっている。
もし魔王の魔法ではなく、ルザード一族だった場合。
この本は闘いに使える!

「――――」

腕に感触が.....。
再び彼女が腕に触れてきた。

「......あの、これはもし良かったらだけど...」

彼女の頬がやや赤みを帯びている。

「私が貴方の名前を――――」

突然、地面に魔法陣が浮かび上がる。
そして、分身が召喚。

....俺は三階層にも分身を潜ませていた。
ビットナイトがその階層にたどり着くタイミングを知るために。
そして、現在分身が再召喚されたということは....。

「.....悪い、ルーナ。話はあとで聞く」

「え.....。うぅん、気にしないで」

....もうすぐ最下層に、ビットナイトがやって来る。

回収(レトリーブ)

ひとまず、遺跡の魔物達に付与した魔力を回収する。
もう、センサーをかく乱させる必要がないからだ。

「....ん?魔力がかなり増えてる」

....そういえば。
前貸しした魔物達が、争うということは当然mpも消費する。
だから回収した際、利子の分まで魔力が増えたのか。

「ステータス、オープン」

....ステータスを確認すると、魔力が10,000まで増えていた。
これなら、ビットナイト相手にも立ち回れるかもしれない。

さて、急いで作戦の準備を――――
禁書の中間のページを開く。
そして半分に破り抜く。

「えっ!?....そんなことして大丈夫なの?」

動揺するルーナに、俺は質問を投げる。

「.......ルーナは演技は得意か?」


  ▽

降りてきたビットナイトとルーナが対峙する。
相変わらず、いかつい龍の顔が圧迫感を出していた。

「.......侵入者はルーナでしたか」

ビットナイトは、俺を見やると口角を吊り上げた。

「.....なるほど。その男を魅了で奴隷にしたのですね。だから貴方程度でもこの最下層にたどり着けたと....」

「彼は奴隷なんかじゃない。仲間だよ」

ルーナの言葉に奴は、眉間に皺を寄せる。

「.....正気ですか?人間を...しかも魅了で自我を奪った男を、仲間だなんて」

呆れたように大きく溜め息を突いた。

「貴様はことごとく私を失望させてくれますね」

「.....それは良かったよ。私もあなた達の思い通りになんて、もう絶対になりたくなかったから」

「は?...何を勘違いしているのですか。思い通りになっていたら、私達がこんなに苦労することも無かったというのに」

ビットナイトの目つきがより一層険しくなる。

「貴様が逃亡を図るから、私は大軍を派遣する羽目になりました。これがどういうことか、機密の重要性を知っている貴様ならわかりますよね?」

「....................」

ルーナの顔が俯く。

「....機密を守るために、最後には大軍の命を切り捨てなければいけないんです。たった一人、貴様の行動のせいで」

....暴論だ。
大軍を殺すのは魔王の意図であって、彼女ではない。
だがビットナイトは自分が命令に逆らえないからと、より弱い立場に八つ当たりしている。
きっと....いつもこんな風にルーナを追いこんでいたのだろう。

「本当なら今すぐ殺したいところですが、貴様は魔王の娘。だから最後にチャンスを上げます」

.....チャンスという言葉に彼女の体がピクッと反応する。

「もし凄惨な最後を遂げたくないのなら、今すぐこちらに降伏しなさい」

「................」

「そうすれば、温情を与えて楽に殺してあげます。....いかにあの忌々しい人間との”ハーフ”な貴様でもね」

......ハーフか。
これでルーナの姿の変化にも説明がつく。
そして、同族には優しそうなビットナイトが彼女に当たりが強いことも。

「さぁ、好きな方を選びなさい。抗い人間として無残にしぬのか。それとも降伏し魔族として安らかに逝くのかを」

彼女が拳を強く握りしめる。

「わたしは...多くの魔族さん達を巻き込んでしまった最低の女。......けど、それでも......!」

ずっと俯いていた顔が上がる。
真っすぐ強い眼差しでビットナイトを見る。

「わたしは、生きてこの目で星空を見たい!」

その瞬間、彼女の姿が変化する。
サキュバスへと。

それに伴い、ビットナイトに及ばないものの大きな魔力を放つ。

「大切な人と二人で見るって約束したから......。私は最後まで足掻くよ」

「...............そうですか」

ルーナの決意に、呆れたように応えるビットナイト。

「そんなに星空が好きなら――」

空気を切り裂きながら、彼女に近づく龍の魔物。

「今すぐ貴様を星にしてあげますよ!!」

奴の意識は完全にルーナへと向いた。
――つまり
今が不意打ちの最大チャンス。

俺は視線でルーナに合図。
それに応えるかのように彼女が風魔法を俺に当てる。
丁度、敵に飛ばす向きにして。

ビットナイトと俺。
両者が向かい合いながら急接近する。

「なっ――」

予想外の行動に、敵の動揺が見て取れた。

.....奴は魔力総量は7万だが、防御は7千程。
対して、俺は魔力総量10000。
昨日の不労魔力とさっきの遺跡の前貸しで増やした魔力だ。

俺は即座に魔力10000を攻撃に振る。
そして奴の懐へ――
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