相棒をS級勇者に奪われた俺、スキル【力の前貸し】で勇者を破滅へ導く!~全てを負債地獄に叩き落とし、新たな魔王として君臨する!
第30話 掌の上
鞘を抜き――
奴の首目掛けて、剣を振り下ろす。
奴との距離からも避ける暇もないはず。
「ぐ――――」
しかし、奴は腕で首を守った。
いや正確には、左腕を犠牲にして僅かな時間を稼いだのだ。
後ろへと下がる、ビットナイト。
「.....まさか魅了の演技で、私を陥れようとしていたとは」
もう演技の意味はない。
俺はビットナイトがいる場で初めて口を開く。
「さすがにあんたには、引っ掛からねぇか。....少し安直過ぎたかもな」
「.....いいえ。低能な人間にしては、上出来ではないでしょうか?」
奴が心底バカにした笑みで挑発してくる。
「へぇー...あんたって実は優しいんだな」
「はっ?.....一体どういうことでしょう?」
「だってよ、俺の低レベルな作戦に《《わざと》》片腕を犠牲にしてくれたんだぜ」
「..............」
俺も口角を上げた。
「優しさでなきゃ、あんたがその程度ってことになっちまう。けど.....《《まさか》》、そんなことはないだろうしな」
煽り返されたことで、ビットナイトの顔は険しい表情へと変わる。
苛立ちを隠そうともせず、前面に押し出してきた。
「図に乗るなよ、人間。その気になれば、私の魔法ですぐに消し炭にできるのだから」
「.......そうか。ならなぜ、今まで魔法を使わなかったんだ?」
「.....魔法を使えば、一瞬で勝敗が決まるでしょう?そうなれば、人間の恐怖をじっくり味わうことができない」
ビットナイトは余裕のある口ぶりだが、表情には微かに焦りが感じ取れる。
「だから、あえてこれまで魔法を使わなかったのです」
「....いや、違うな。あんたは使わなかったのではなく、《《使えないんだ》》」
「ほぉ、何を根拠に?」
「あんたが魔法を使えないのは、一つ懸念があるからだ」
そう言って、服の中から禁書を取り出した。
「魔法で俺を消し炭にすれば、禁書まで巻き添えになる」
奴の方から舌打ちが聞こえてくる。
やはり、正解のようだ。
「...たしか任務に失敗した場合、この遺跡をさまようか死の、二択らしいな」
この禁書は魔王にとって重大なもの。
だからこそ、あいつは禁書を守るのが最大の任務。
「幾ら幹部でも、その禁書を破壊したらあんたの首はお終いだ。だからあんたは、接近して攻撃するしか方法が取れないんだろ?」
「なるほど、禁書を人質に取ったという訳ですか」
ビットナイトは、再び笑みを浮かべるとルーナの方へ手をかざす。
「けれど、こちらにだって人質はいるのですよ。......ルーナというね」
奴の右手から、光の粒子が集まる。
同時にそれは、薄暗いこの空間を照らした。
「......辞めた方がいいぞ。....彼女を打った途端、貴様の首は終わるからな」
「は?私の首が終わる?」
理解できないといった具合で、こちらを見る。
そんなビットナイトの為に、禁書を見せつけるように開く。
分かりやすく状況を説明するために。
「お前も、その光で見えると思うが.....。この本の半分のページは抜き取られているんだ」
「!?」
「果たして、その半分は誰の手にあると思う?」
ビットナイトの手から、光の魔法が消えた。
「貴様、禁書を滅茶苦茶にしやがって!!」
魔法の遠距離攻撃は使えないからか、接近して殺害を試みる敵。
「ルーナ!」
「うん。分かってる!」
彼女はビットナイトに風の魔法を放つ。
竜巻の威力のような強風をぶつけた。
それにより進行方向を阻む向かい風となり、敵の速度を落とさせる。
さて、俺も....。
体の内側に意識を向ける。
――リース&バンス
体の内側に2つの流れを作り、即座に魔力を速さに移す。
接近してくる敵。
拳が目の前まで迫る。
風切り音と共に攻撃が空振りする。
しかし――
奴の攻撃が生んだ風圧の影響で後方へと吹き飛ばされる。
(何て威力のある拳だ。...当たっていたら、ひとたまりもねぇ)
次なる攻撃に構えると.....
ビットナイトは別の方へと動き出した。
ルーナの方へと。
(しまった。奴の狙いは、最初からルーナか!?)
ルーナを殺せば、風というビットナイトの速度にデバフを架けるものがいなくなる。
戦況が奴の有利に傾く。
ルーナは風魔法を向かい風のようにして、接近を阻害する。
だが、それでも徐々に.....。
「させるかよっ!!」
俺も猛スピードで別の方からルーナへ近づく。
敵は向かい風を受けている分、俺の方が早く彼女に接近できた。
彼女を担ぎ、距離を取る。
その間にも風魔法は、放たれ両者の距離は大きく開いた。
暗闇の中を走って、走り続ける。
だが、遺跡の広さにも限界があった。
進行方向は遺跡の最奥で、行き止まり。
これ以上進めば、壁と敵に挟まれ逃げ場を失う。
仕方なく、担いでいたルーナを降ろす。
「....ルーナ、風魔法はまだ放てるか?」
「うん。まだあとちょっとなら放てるよ」
「なら俺の剣を思いっきり、飛ばしてくれ」
「えっ、剣を?」
彼女には悪いが説明している暇はない。
俺はリース&バンスで魔力10000を攻撃に振った。
そして溢れんばかりの力で――
剣を来た道の方へ、槍のように飛ばした。
「ルーナ!!」
「あっ!うん」
俺の意図に気づき、ルーナが風魔法を放つ。
追い風によりその威力はさらに磨きがかかる。
そして....
「な――」
後から追ってきたビットナイトに衝突した。
場を爆発音にも似たけたたましい音が包む。
同時に遺跡全体が揺れ動くような衝撃が走った。
俺とルーナは、すぐさま地面に伏せる。
加えて落ちてくる瓦礫から、手で頭をガードした。
▽
「......だいぶ、揺れがおさまってきたね」
彼女がスッと立ち上がる。
「あれでビットナイトも倒せたかな?」
「いや、奴はあの程度でやられる玉じゃないさ」
俺も立ち上がり、そして構える。
「....奴は必ず生きている」
暫くして、トン...トン...と足音が聞こえてくる。
「やってくれましたね。人間風情が」
ビットナイトが奥から姿を現した。
腹には、貫通された穴が開いている。
「しかし、あなたの攻撃手段はもう己の手と足しかない。もう私が勝ったも同然です」
敵の勝利宣言に思わず、ほくそ笑む。
「.....それはどうかな」
俺は手を掲げ、力の前貸しと唱える。
漆黒の魔力がビットナイトへと流れ出る。
「......何です、これは?」
魔力の高まりに困惑した様子だ。
だが、無理もない。
俺の魔力のほとんど、9800を前貸ししたのだから。
◇ビットナイト
....ビットナイトは魔力付与に動揺していた。
一つはこの男に付与のような技術があることへの驚き。
そして二つ目は――
なぜ敵が魔力を付与したのかの謎だ。
しかも、付与した魔力は決して少量ではない。
男の魔力の大部分を敵に注いだのだ。
普通の思考回路なら絶対に取らない選択肢。
格上の敵を更に強化してどうやって勝つ気でいるのか?
ビットナイトは、この男の意図が全く見えずにいた。
圧倒的な魔力格差。
男が弱体化した今なら、場を簡単に制することができる。
しかし、中々足を踏み出すことができない。
体が小刻みに揺れ、額からは冷や汗が出始める。
(くそっ!魔力ではこちらが圧倒的に有利なはず。なのに――)
どうして手のひらで踊らされているような感覚を拭えないのだろうか?
奴の全ての行動が罠だと錯覚してしまう。
「.....どうした、かかって来ないのか?」
目の前の男が揺さぶりをかけてくる。
「なら、強制的に向かわざるを得ない状況にしてやるよ」
そう言うと男は、禁書を取り出した。
そして後ろの方へ投げ――
「ファイヤーボール」
本目掛けて、火の玉を放つ。
「!!?」
ビットナイトは瞬時に動く。
自分の首に関わる物で、絶対に破損させるわけにはいかない。
――なんとか間に合った。
本を翼で包み、炎の玉から守る。
攻撃は全く、痛くもかゆくも無い。
「なっ!?」
しかし....。
禁書に触れて気づく。
一冊の本にしてはあまりにも軽すぎるということに。
中を開くと本のページが全て抜き取られていた。
つまり、ビットナイトが必死に守ったのはただの表紙。
「貴様っ!!どこまでも私をコケにしやが――」
振り向くと、男がすぐそばまで接近していた。
「あっ.......!!!」
後ろはすでに行き止まり。
....まさか、禁書を守ると読んだ上で逃げ場のない方へ誘導をかけたのか?
ビットナイトの頭は、恐怖でひるむ。
「レトリーブ」
その言葉と共に、男の魔力が爆発的に膨れ上がる。
だが、その力の流れは目の前のビットナイトからではない。
まるでこの遺跡の“至る所から”、無数の糸のように魔力が彼に収束していったのだ。
奴の首目掛けて、剣を振り下ろす。
奴との距離からも避ける暇もないはず。
「ぐ――――」
しかし、奴は腕で首を守った。
いや正確には、左腕を犠牲にして僅かな時間を稼いだのだ。
後ろへと下がる、ビットナイト。
「.....まさか魅了の演技で、私を陥れようとしていたとは」
もう演技の意味はない。
俺はビットナイトがいる場で初めて口を開く。
「さすがにあんたには、引っ掛からねぇか。....少し安直過ぎたかもな」
「.....いいえ。低能な人間にしては、上出来ではないでしょうか?」
奴が心底バカにした笑みで挑発してくる。
「へぇー...あんたって実は優しいんだな」
「はっ?.....一体どういうことでしょう?」
「だってよ、俺の低レベルな作戦に《《わざと》》片腕を犠牲にしてくれたんだぜ」
「..............」
俺も口角を上げた。
「優しさでなきゃ、あんたがその程度ってことになっちまう。けど.....《《まさか》》、そんなことはないだろうしな」
煽り返されたことで、ビットナイトの顔は険しい表情へと変わる。
苛立ちを隠そうともせず、前面に押し出してきた。
「図に乗るなよ、人間。その気になれば、私の魔法ですぐに消し炭にできるのだから」
「.......そうか。ならなぜ、今まで魔法を使わなかったんだ?」
「.....魔法を使えば、一瞬で勝敗が決まるでしょう?そうなれば、人間の恐怖をじっくり味わうことができない」
ビットナイトは余裕のある口ぶりだが、表情には微かに焦りが感じ取れる。
「だから、あえてこれまで魔法を使わなかったのです」
「....いや、違うな。あんたは使わなかったのではなく、《《使えないんだ》》」
「ほぉ、何を根拠に?」
「あんたが魔法を使えないのは、一つ懸念があるからだ」
そう言って、服の中から禁書を取り出した。
「魔法で俺を消し炭にすれば、禁書まで巻き添えになる」
奴の方から舌打ちが聞こえてくる。
やはり、正解のようだ。
「...たしか任務に失敗した場合、この遺跡をさまようか死の、二択らしいな」
この禁書は魔王にとって重大なもの。
だからこそ、あいつは禁書を守るのが最大の任務。
「幾ら幹部でも、その禁書を破壊したらあんたの首はお終いだ。だからあんたは、接近して攻撃するしか方法が取れないんだろ?」
「なるほど、禁書を人質に取ったという訳ですか」
ビットナイトは、再び笑みを浮かべるとルーナの方へ手をかざす。
「けれど、こちらにだって人質はいるのですよ。......ルーナというね」
奴の右手から、光の粒子が集まる。
同時にそれは、薄暗いこの空間を照らした。
「......辞めた方がいいぞ。....彼女を打った途端、貴様の首は終わるからな」
「は?私の首が終わる?」
理解できないといった具合で、こちらを見る。
そんなビットナイトの為に、禁書を見せつけるように開く。
分かりやすく状況を説明するために。
「お前も、その光で見えると思うが.....。この本の半分のページは抜き取られているんだ」
「!?」
「果たして、その半分は誰の手にあると思う?」
ビットナイトの手から、光の魔法が消えた。
「貴様、禁書を滅茶苦茶にしやがって!!」
魔法の遠距離攻撃は使えないからか、接近して殺害を試みる敵。
「ルーナ!」
「うん。分かってる!」
彼女はビットナイトに風の魔法を放つ。
竜巻の威力のような強風をぶつけた。
それにより進行方向を阻む向かい風となり、敵の速度を落とさせる。
さて、俺も....。
体の内側に意識を向ける。
――リース&バンス
体の内側に2つの流れを作り、即座に魔力を速さに移す。
接近してくる敵。
拳が目の前まで迫る。
風切り音と共に攻撃が空振りする。
しかし――
奴の攻撃が生んだ風圧の影響で後方へと吹き飛ばされる。
(何て威力のある拳だ。...当たっていたら、ひとたまりもねぇ)
次なる攻撃に構えると.....
ビットナイトは別の方へと動き出した。
ルーナの方へと。
(しまった。奴の狙いは、最初からルーナか!?)
ルーナを殺せば、風というビットナイトの速度にデバフを架けるものがいなくなる。
戦況が奴の有利に傾く。
ルーナは風魔法を向かい風のようにして、接近を阻害する。
だが、それでも徐々に.....。
「させるかよっ!!」
俺も猛スピードで別の方からルーナへ近づく。
敵は向かい風を受けている分、俺の方が早く彼女に接近できた。
彼女を担ぎ、距離を取る。
その間にも風魔法は、放たれ両者の距離は大きく開いた。
暗闇の中を走って、走り続ける。
だが、遺跡の広さにも限界があった。
進行方向は遺跡の最奥で、行き止まり。
これ以上進めば、壁と敵に挟まれ逃げ場を失う。
仕方なく、担いでいたルーナを降ろす。
「....ルーナ、風魔法はまだ放てるか?」
「うん。まだあとちょっとなら放てるよ」
「なら俺の剣を思いっきり、飛ばしてくれ」
「えっ、剣を?」
彼女には悪いが説明している暇はない。
俺はリース&バンスで魔力10000を攻撃に振った。
そして溢れんばかりの力で――
剣を来た道の方へ、槍のように飛ばした。
「ルーナ!!」
「あっ!うん」
俺の意図に気づき、ルーナが風魔法を放つ。
追い風によりその威力はさらに磨きがかかる。
そして....
「な――」
後から追ってきたビットナイトに衝突した。
場を爆発音にも似たけたたましい音が包む。
同時に遺跡全体が揺れ動くような衝撃が走った。
俺とルーナは、すぐさま地面に伏せる。
加えて落ちてくる瓦礫から、手で頭をガードした。
▽
「......だいぶ、揺れがおさまってきたね」
彼女がスッと立ち上がる。
「あれでビットナイトも倒せたかな?」
「いや、奴はあの程度でやられる玉じゃないさ」
俺も立ち上がり、そして構える。
「....奴は必ず生きている」
暫くして、トン...トン...と足音が聞こえてくる。
「やってくれましたね。人間風情が」
ビットナイトが奥から姿を現した。
腹には、貫通された穴が開いている。
「しかし、あなたの攻撃手段はもう己の手と足しかない。もう私が勝ったも同然です」
敵の勝利宣言に思わず、ほくそ笑む。
「.....それはどうかな」
俺は手を掲げ、力の前貸しと唱える。
漆黒の魔力がビットナイトへと流れ出る。
「......何です、これは?」
魔力の高まりに困惑した様子だ。
だが、無理もない。
俺の魔力のほとんど、9800を前貸ししたのだから。
◇ビットナイト
....ビットナイトは魔力付与に動揺していた。
一つはこの男に付与のような技術があることへの驚き。
そして二つ目は――
なぜ敵が魔力を付与したのかの謎だ。
しかも、付与した魔力は決して少量ではない。
男の魔力の大部分を敵に注いだのだ。
普通の思考回路なら絶対に取らない選択肢。
格上の敵を更に強化してどうやって勝つ気でいるのか?
ビットナイトは、この男の意図が全く見えずにいた。
圧倒的な魔力格差。
男が弱体化した今なら、場を簡単に制することができる。
しかし、中々足を踏み出すことができない。
体が小刻みに揺れ、額からは冷や汗が出始める。
(くそっ!魔力ではこちらが圧倒的に有利なはず。なのに――)
どうして手のひらで踊らされているような感覚を拭えないのだろうか?
奴の全ての行動が罠だと錯覚してしまう。
「.....どうした、かかって来ないのか?」
目の前の男が揺さぶりをかけてくる。
「なら、強制的に向かわざるを得ない状況にしてやるよ」
そう言うと男は、禁書を取り出した。
そして後ろの方へ投げ――
「ファイヤーボール」
本目掛けて、火の玉を放つ。
「!!?」
ビットナイトは瞬時に動く。
自分の首に関わる物で、絶対に破損させるわけにはいかない。
――なんとか間に合った。
本を翼で包み、炎の玉から守る。
攻撃は全く、痛くもかゆくも無い。
「なっ!?」
しかし....。
禁書に触れて気づく。
一冊の本にしてはあまりにも軽すぎるということに。
中を開くと本のページが全て抜き取られていた。
つまり、ビットナイトが必死に守ったのはただの表紙。
「貴様っ!!どこまでも私をコケにしやが――」
振り向くと、男がすぐそばまで接近していた。
「あっ.......!!!」
後ろはすでに行き止まり。
....まさか、禁書を守ると読んだ上で逃げ場のない方へ誘導をかけたのか?
ビットナイトの頭は、恐怖でひるむ。
「レトリーブ」
その言葉と共に、男の魔力が爆発的に膨れ上がる。
だが、その力の流れは目の前のビットナイトからではない。
まるでこの遺跡の“至る所から”、無数の糸のように魔力が彼に収束していったのだ。