相棒をS級勇者に奪われた俺、スキル【力の前貸し】で勇者を破滅へ導く!~全てを負債地獄に叩き落とし、新たな魔王として君臨する!

第32話 呪いの下で生まれた者

「システムが支配って、どういうことだ?」

「....そのままの意味ですよ」

支配ということは.....。
経験値は自然な現象ではなく、人為的に作られたのだろうか?

「本来、倒した相手の魔力は丸々手に入れることができます。...しかし経験値システムがあるせいで、その成果の大部分を中抜きされてしまうのです」

.....自分の常識が180度反転するような衝撃だった。
だが、言われてみれば腑に落ちる部分もある。

経験値《けいけんち》効率《こうりつ》は、1%に満たない。
この低すぎる数値が、搾取されている何よりの証明なのかもしれない。

「だから魔王様はそんな搾取から脱却すべく、世界の真相が書かれた禁書を求めました」

「.....なるほど、話は分かった。だが、未だに信じられねぇな」

ビットナイトは眉間にしわを寄せ、不服そうな表情に...。

「.....何が信じられないのですか?」

「だってよ、あんたの話を真に受けると....。あの魔王ですら、誰かの手のひらで踊る駒にすぎないってことだぜ」

「....えぇ。本当に不快なことですが、その通りです」

奴は目を強く瞑りながら、そう肯定する。

「....そもそも我々が、公の目を気にして建前を使ったのも....。魔王様より上位の存在が世界を監視しているからです」

「.....上位の存在ってことは、魔王でも歯が立たねぇってことか?」

「当たり前でしょう。魔王様が一番強ければ、公を気にする必要なんて無いのですから」

「その上位存在に心当たりは?」

「.....残念ながらありません。というより、私はその者に関連する情報を何も知りません」

....自分で推測していくしかねぇってことか。

「................」

.....魔王より強い存在。
これまでの情報を踏まえると、そんな奴はたった一人しかいない。
経験値システムを作った奴だ。

だが、そうすると大きな疑問も出る。
経験値は、この世界に魔力が生まれたころから存在していた。
そして、それは丁度、千年も前の話。
つまり、作った奴の寿命はとっくに尽きているはずだ。

それなのに、魔王は警戒している。
.....何か、からくりが――――

「持ち得る情報は全て話しました。....さぁ、私を早く殺しなさい」

「............」

ビットナイトは覚悟を決めたのか、自分から指示してきた。
敵ながら、素直に感心する。
―――だが

「....悪いがその望みに、すぐ応えることはできない」

奴の勇気ある決断を断った。

「......それは...なぜですか?」

「俺の計画のために、あんたの魔力は全部奪うからだ」

利子で魔力をすべて奪うには、mpの消費が必須。
その為には、毒ポーションで苦しんでもらう必要がある。

「計画.....?貴様、一体何を企んで....」

「相棒を殺したS級勇者と、王族たちへの復讐だ」

その言葉を聞いたビットナイトが、口を歪ませ笑い出す。

「やはり人間は野蛮な種族ですね。人同士、同じ種族で殺しあうのですから」

人間を、心底見下したようにそう言い放った。

「貴様の相棒とやらも果たして、どんな気持ちで逝ったのでしょうねぇ。.....同族に殺される寸前の表情、ぜひとも見てみたいものです」

.......フォンが同族に殺された?
どうやら奴は、大きな勘違いをしているようだ。

「違えよ、屑野郎。相棒は人ではなく、魔物だ」

「..........は?」

ビットナイトは、理解できないといった表情をする。
奴にとって人間と共存することなど、ありえないのだろう。

「相棒が異種族なのがそんなに理解できないのか?」

「えぇ、できませんね。なぜ魔物が人間側についたのか...」

「...俺と相棒は、お互い迫害を受ける中で出会ってな。助け合っていく内に種族の垣根なんて、越えていたんだ」

そう応えると再び、笑みを浮かべ体を小刻みに振るわす。

「ククッ――」

それは――
奴の見せた笑い声の中で、一番大きな声だ。
その悪魔とも呼べる笑い声は、遺跡中に響き渡った。
そして、ひとしきり笑った後、俺を見やる。

「ククッ。つまり、貴様とその相棒とやらは同じ穴の狢というわけですね。底辺者同士として」

「...........何がいいたい」

「否、なに。........落ちこぼれの魔王の娘然り、なぜ異種族に縋る者が現れるのかが不思議だったのです」

...まるで相棒を嘲笑うかのような奴の目。

「しかし、今ので合点がいきました。同族の中で最下層だから、序列の無い異種族に逃避するのだと」

徐々に黒い衝動が――

「傍から見れば最下層同士、傷の舐めあいをしているに過ぎないというのに」

怒りが全身を駆け巡る。

「殺したS級勇者の目にも、底辺同士が馴れ合い逃避している様は....。さぞかし滑稽に映ったことでしょうね」

「.......................」

「そして、その幻を終わらせ、絶望した貴様の顔を拝んで....。あぁ、なんて羨ま――」

言い切る前に、俺は奴の右目に炎を被せた。

「――――――――――」

目が焼ける痛みにうめき声をあげている。
その際に開かれた大きな口に、大量の毒ポーションをぶち込んだ。

「たしかに、復讐に生きる俺は最底辺の存在かもしれない。.....けどな―――」

胸ぐらを掴み自分のありったけの激情を屑にぶつける。

「こんな俺なんかに寄り添ってくれたフォンは、序列で見下すてめぇなんかより、よっぽど上等に決まってんだろうが!!」

掴んでいた手を放し、一度呼吸をする。
危なかった。
俺は一瞬、冷静ではなかった。
少し、頭を冷やさねぇとな。

「お前があいつらと同類の屑でよかった。これで、ラミアの時と違ってなんの躊躇も無くなった」

大量の毒に悶え苦しみながら、奴が口を開く。

「....ラ..ミ...ア....だと....。まさか....きさまが....メレシス....を....」

「あぁ。これで、あんたと同じように毒殺した」

そう言って、ラミアが所持していた空のポーションを見せる。

「.....きさ....ま。....きさま....」

片目を大きく見開き、鬼の形相で俺を睨みつけた。
そして、何としても殺そうと、地面を芋虫のように這う。
さて――
利子の増加具合はどうなっているだろうか?
奴の負債プロンプトを確認する。

....魔力を全て奪うには、あと二時間かかりそうだ。

  ▽

あれから、数時間が経つ。
時間というのは、想像以上に人(魔物)を変えるらしい。
激しくもがいたビットナイトは、今ではぴたりとも動かなくなった。
睨み殺すような視線も、完全に消え失せている。

「メレ...シス.....。メレ...シス。...メ――」

毒を飲ませた直後は、俺に対する罵詈雑言がほとんどだった。
しかし、死期が近づいたからか.....。
発する言葉は、想い人であろう名前に代わった。

そして――
二時間が経過する。
.....魔力を全て奪い去るほどの利子が溜まった。

回収(レトリーブ)

ビットナイトから俺に、漆黒の魔力が流れ入ってくる。

「ぐ――」

余りの莫大な魔力に、まるで自身が魔力風呂につかっているような錯覚を覚えた。

......全ての魔力を回収し終える。
すると、以前にも増して禍々しい魔力のオーラが湧き出てきた。

「...なんて....おぞましい.....魔力」

俺の変容したオーラに触れたからか。
ビットナイトの閉じかかっていた目が見開かれる。

「魔王...様...ですら....こんなオーラは....」

奴の声から、微かに震えが感じ取れる。
つまり、魔族ですら怯えたということ。
.....俺はもう人とは、呼べない存在なのかもしれない。

「貴様......一体....何者....だ?」

「.................」

敵の問いに、かつての記憶が鮮明に蘇る。

「何者か――か。.....過去にも似たようなことをよく聞かれたな」

もっとも、今のように得体のしれない恐怖から聞くニュアンスとは異なる。
故郷の人達は俺の名前の由来を分かって、わざわざ聞いてくるのだ。

――そう
俺の存在自体が否定されているということを、常に認識させるために。
名付け親は、その名前のような人物になってほしくて付けるのが一般的だという。

そして皮肉なことに、俺のとる行動や生き方は名前と一致しつつある。

「俺は..」

煮えたぎった怒りや憎悪が溢れ出す。

「大切なものを奪った奴らに、ツケを何倍もの利子にして払わす

――リザヤだ」

....相棒を殺されたあの時から。
きっと復讐することでしか生きる意味を得られなくなったのだろう。

「あ....く.......ま――」

そう言い残し、奴の呼吸音は止まる。
力尽きたようだ。

「俺が悪魔......か」

独り感傷に浸っていると、遠くから足音が聞こえてきた。
.....どんどん、こちらに近づいてくる。

「......ルーナか?」

「う、うん。しばらく経っても、戻ってこないから心配になっちゃって」

彼女がそばまで来て、ビットナイトの惨状を目にした。

「.....目に毒だろ。あまり無理して見ない方がいい」

そう言うも、ルーナは奴の死骸を凝視し続けた。

「気遣ってくれてありがとう。...でも、これは私が招いたことだからしっかり見ておかないと」

彼女の表情は、一言で表せないほど複雑だった。

....ルーナはずっと、あいつに怯えた人生を送ってきている。
だから、その死にも万感の感情を抱いているに違いない。

「...............」

しばらくして、下げていた視線を上げ俺の方を見た。

「....あの、一つ聞いてもいいかな?」

「....なんだ」

「遺跡の魔物が討伐されてたけど.....もしかして貴方が分身さんに指示したの?」

「あぁ。ビットナイトを倒す魔力を得るためにな」

彼女は衝撃で思わず開いた口を手で隠す。

「.....そこまで計算してたんだ。私は何も聞かされなかったから、気づかなかったよ」

珍しく含みのある言い方だ。
裏で密かに進めていたことを、信頼されていないと捉えたのだろうか?

「作戦を伝えなかったことは悪く思っている」

「あっ、別に怒っているわけじゃなくて。....少し心配だったから」

「心配て....俺のことをか?」

「うん。私が不甲斐ないばかりに、何もかも背負わせた」

胸に手を置き、申し訳なさそな顔で俺を見る。

「さっきみたいな事を独りで抱えていたら、いつか壊れてしまうんじゃないかって、不安で」

........さっきみたいな事、か。
その言葉から察するに、尋問のやり取りを見られていたのかもしれない。

「心配しなくていい。俺、こういう汚れ仕事みたいものに慣れてんだ」

「でも――」

「召喚|《サムン》」

彼女が何かを言い切る前に、分身を召喚する。

.......俺は復讐者だ。
しかし、彼女は復讐のために生きているのではない。
彼女が自分の居場所を見つけたら、道をたがえる。

その際、もし俺との距離が近かった場合....。
彼女がこれから送るであろう、人生の足枷になってしまう。
だから、俺の心の隙間に入り込ませるわけにはいかない。

「ルーナ。少し目を瞑って|《つむ》いてくれないか?」

「........えっ?えっと、どうして」

「この森の出口って、魔王軍が封鎖しているんだろ。...そいつらを退けるためだ」

「そうなんだ。これも貴方の策の一つなんだね」

......彼女は納得し、目を閉じた。
それを確認したあと、分身に”指示”を送る。

「――」

命令を受けた分身が、ビットナイトの遺体に近づいていった。
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