Pleasure Treasure(プレジャ、トレジャ)

2、体温(2)

 子供みたいに、無邪気に過ごす時間は心地よくて、結ばれなくてもいいなんて、
 一瞬思ったけれど、涼はそうではない。
 生身の菫子に触れて確かめたいのだ。
 菫子は、決意を固めるように、小さく頷いた。
 もはや、自分の心に嘘なんてつけない。同じ気持ちなのだ。
「菫子、めっちゃかわいい」
「……涼ちゃんもかっこいいわ」
 くす、笑って、自然と互いの衣服を脱がせ合った。
 いつもより、素直に言えるのは何故?  菫子はたまらなく恥ずかしかったが、
 愛情が伝わってくるので、ためらいはなかった。
 素肌が外気に晒されて、羞恥に頬を染めながらも涼から視線を離さなかった。
 首筋と鎖骨に、甘い痛みがひいては押し寄せる。
 菫子は無意識で、涼の方に手を伸ばした。
 強く掴まれて、しばらくした後離れた涼の指は炎と化していて、
 このままでは二人でやけどしちゃうわと真面目に思ったが、
 耳に感じた電流で、思考を切り離された。
 気を逸らすことなんて不可能だ。
 耐えず襲いかかる刺激で、冷静さなんて、保てない。
 男の人って、すごい。太刀打ちできない。菫子は感心した。
 自分から出る甘い声を抑えたくて口元を手で押さえるが無駄な抵抗だった。
 唇と指で最初は恐る恐る触れられていたが、次第に、本能のままにもてあそばれる。
 そこが敏感な部分だと、知った。
 菫子は、きゅ、とシーツをかいて掴んだ。
 辿る指先とキスが、奥深くを目指す。
「こんな所触らないで……汚いのに! 」
 強い抵抗を示し、枕に顔を押しつけた。
 自分は使い慣れていない涼が使っている枕に。
「汚くなんてない。菫子の匂いがする」
「……だって……」
「何言いたいか、わからへん」
 菫子はむっと唇を尖らせた。
 おちゃらけた物言いは、涼だ。
 だが不思議と軽いと思ったことはない。
 本来は生真面目なのだから……。
 傷つけるとわかっていて触れることを恐れる程に。
「悪いようにはせえへんから。緊張するならずっとしゃべっとこうか? 気も紛れるやろ」
 どこかあくどい顔で涼は、言い放つ。
「……っ……しゃべってもらっても聞こえないもの」
 まともに答えるのも難しい。
 与えられる快楽に集中している体と心。
「感じてるからやろ? 俺のせいやな」
 同時にいろんな箇所を攻められて、菫子は、小さな体をくねらせた。
 丸めた体に、覆い被さってくる涼の大きな体。
 ベッドが、ぎしりと音を立てた。
「菫子……俺がお前を抱きたいのは、愛してるからや。全部そっから来てる」
「わかってる……っ……こんな私でよかったら、あげるから涼ちゃんのこともくれる? 」
 潤んだ眼差しで涼を見上げて、彼の腕を指で掴んだ。
 震える声音で懸命に伝える。
 涼は、破顔したあと、軽くうなだれた。
「あかん……やっぱかなわんわ。惚れられた時点で勝敗は決まっとったってことか」
「……涼ちゃんを好きになった時点で負けているわよ」
「うわ、喜んでええかわからん」
「プラスに考えればいいのよ」
 菫子は、くすっと笑う。
「のせられるのも悪くないか」
 涼は苦笑いを浮かべた。
 葛藤しているのか、動きがぎこちなくなって、
 もどかしさに、じれったくなった菫子はうわ言でつぶやいた。
「ん……やめないで」
 涼の眼差しが、注がれている全身は桃色に色づいている。
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