Pleasure Treasure(プレジャ、トレジャ)

番外編「初詣での遭遇、ふいうちのキスとバレンタイン」(3)

足が長いからあっという間に距離を詰められた。
 人が多いからなんとなく人がいない場所に歩き出す。
(でかぶつももれなくついてくるし)
「お姫様、一人は危ないで」
「姫じゃないし近寄らないでくれる!」
「……菫子の着物姿、初めて見た」
「伊織、綺麗だったよね」
「顔は見たけど着物は見てない。菫子しか」
 お正月早々、ぐいぐい来る人だ。
 むかつくけど視線をぶつけるしかできない。
 見上げていると少し首がつらい。
 いつもと違う靴だから慣れていないのもある。
「りんご飴でも食べよか」
「なんで」
「菫子に似てるから食べたくなった」
 草壁涼……お互いに好きなのに一歩踏み出せない関係を続けている相手。
 彼に見つめられ触れられたい。
 その気持ちは心のどこかにあるはずなのに、
 照れが先だって何もできない。
 りんご飴を買いに行った涼ちゃんが戻ってくるまで、
 茫然と姿を目で追っていた。
 二つ買ったうちの一つを私に渡してくれたので、小声でありがとうと伝えた。
 彼は、深い笑みを讃えている。
 ぐいと腕を引かれて出店の裏側に回った。
 喧噪がなくなり二人きりになる。
 石段の上で座り込む。
 涼ちゃんはそんなに距離を空けなかった。
「似てないわよ。そんなに真っ赤になってないし。
 お化粧してるからわからないでしょ」
「今日は濃いめやけど、それくらいわかるで」
「……気づかないでほしい」
「俺が来るまでは永月が悪い虫を追い払ってくれとったんやろな」
「伊織はそういうのをはねのけるのよ。
 私は怒っても威力ないんだって」
「かわいいだけやしな。今日は特別にかわいい」
「着物のおかげでそう見えるのかもね」
「……もともと菫子はめっちゃかわいいやん」
「幼稚なのよ。声かけてきた高校生に中学生に見られたもん」
「生意気なクソガキやな。こんなええ女に失礼なことぬかしやがって」
「それじゃあ涼ちゃん、私と……な、何でもない」
「……何か大胆なことでも言おうとした?」
(ぐぬぬ!)
「菫子、バレンタインってどうするん。
 なんか予定でもある?」
「普通に大学行って終わりですが何か?」
 意味深に見つめられて、頬に熱が集まる。
「義理か本命かどっちあげればいいか悩んでる人がいるの。
 その人にチョコレートなんてあげたことないから」
 しらじらしいことを言ってしまったがもう遅い。
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