Pleasure Treasure(プレジャ、トレジャ)

11、桜色(2)

 バイクに乗りこみながら、菫子は、遠い目をした。
(なんて、的確な表現なのかしら……うう)
「……菫子ん家まで送ればええんやろ」
「うん。外までね」
 釘をさすと、薄く笑われる。
「へーい」
 しっかりと腰にしがみつくと、バイクのエンジンがかかった。
「バイクが大好きになったかも」
「お、今度バイクショップ行くか。見るのも楽しいで」
「行く、行く」
 連呼した菫子に、涼の笑う気配が伝わってきた。
「……決めた。次のプレゼントは革パンと革ジャンにしよう」 
「……うっかり興奮しちゃったじゃないの」
「何かますます俺色って感じ。可愛い奴め」
 たわいもない会話をしていると、時間の流れるのも早い。
 車の間をすり抜けて、進んだバイクは、菫子の部屋の前で止まった。
「……このヘルメットも私専用なんでしょ」
「気がつくの遅いで」
 からからと笑った涼に、頬を染める。
「涼ちゃん、今日の夕ご飯、何にするの」
「まだ決めてない。冷蔵庫の中身を見て決めるかな」
「……昨日の残りの煮物でよかったら」
 恐る恐る口に出すと、涼は目を輝かせた。
 菫子は、ふわと抱きあげられた。
 くるくると宙で体が回る。
「びっくりするんだけど」
 子供のようなことをされ気恥かしさでいっぱいだ。
「ありがとな」
 地に下されると、ぎゅっとめいっぱい抱きしめられ、ぼうっとしてしまった。
「……オーバーよ」
「そうか?」
 口づけが降ってくる。
 その甘さにくらりとした。
 いとおしそうに見つめて、髪を撫でる。
「……取ってくるね」
 腕を抜け出して、ぱたぱたと駆け出した。
 頬の熱が冷めなくて、何なのよと思いながら。
 部屋につくと、すーはーと深呼吸して動揺を宥めた。
 小さな触れ合いでさえ、どきどきする。
 付き合い始めてまだ日は浅いのに、友人同士の頃よりずっと涼を知っている。
 侵食して、溢れ出す。
 あの頃はまっすぐ見つめられたが、両想いになった今は
 視線を交わすと、胸がきゅんと疼いて切なくなる。
 こんなに、夢中なのを知っているのだろうか。
 冷蔵庫からタッパーを取り出すと、蓋がしっかり閉まっているのを確認して、胸に抱えた。
 戻ってきた時より、静かな動作で部屋を出る。
「お待たせ」
「めっちゃ美味そう」
 涼は、頬まで火照(ほて)らせて、菫子から煮物入りのタッパーを受け取った。
 犬だったら確実に尻尾を振っていそうだ。
「ありがとさん」
「ど、どういたしまして」
 改めて言われると照れるものだ。
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