Pleasure Treasure(プレジャ、トレジャ)
11、桜色(3)
「涼ちゃん、前から不思議に思ってたんだけど、おおきにとか言わないよね」
「おおきには、商売人が使うんやで」
「新しく知ることができてうれしいです」
「いやいやー」
涼は満更でもなさそうだ。ひとしきり頭を掻いている。
このやり取りは何だろう。
(お笑い系カップルになってしまうのは時間の問題では!)
菫子は、危機感を感じた。
「俺はボケと突っ込みの両方いけるから、オールOKやで」
頭の中身が覗かれたようで、どきっとした。
「……そこまでお見通しにならなくていいわよ」
心でつぶやいたつもりが口に出してしまった。
「考えてることを顔から想像して答えてみたら当たっとったか。くくっ」
「顔に全部出ててごめんなさいね」
「そんなことないで。分からんことだってあるし。菫子もやろ?」
「え、ええ」
「菫子は分かりやすいけどな」
「どっちよ」
「今日はゆっくりおやすみ……すみれ」
口の端をあげて悪戯な顔で、おどけてみせた彼に、菫子は笑いながら
「……おやすみなさい」
告げた。
離れていく姿にお互い手を振って、別れを惜しむ。
「……ふう。もう少しでバイクに乗せて連れて帰りそうやった」
涼が、去り際に呟いた独りごとを、菫子は耳聡く聞きつけていた。
よく通る声というのもある。
夕食を終えて、シャワーを浴びてベッドに入る時、
頭を過ったのは涼の顔で、幾度となく振り払っても現れる。
「ばか……」
独りごちて、瞳を閉じる。
文字通り怒涛のごとく3月は過ぎて、桜が咲き乱れる季節になった。
カレンダーで赤く丸をつけた涼の誕生日までもう少しだ。
4月某日、菫子は、純白の桜が咲き誇る並木道を歩いていた。
真っ白な桜が、光を浴びて何て美しい風景なのだろうと目を細める。
逆にいえば、散ってしまったら途端に寂しい風景に様変わりしてしまうということだ。
大学に行く前にここに来ようと思ったのは誘われたからだ。
桜がまだ咲いていない季節に、何度か来たことがある。
隣には伊織がいて、今より幸せそうに微笑んでいた。
ふわり、風が巻き起こり、花びらがいくつか散った。
まだ散り始めていないのに、風は簡単にひとひらを散らしてしまう。
ベンチには、長い黒髪を揺らす影が見えて、一歩近づくほどその存在を明らかにしていく。
とことこと、吸い寄せられるように近づく。
首を傾けて、空を見上げている伊織は、どこを見ているのだろう。
声をかけるのがためらわれるほど、景色と同化していて一枚の絵のようだった。
「伊織……」
「……菫子」
目を瞠り、菫子を見つめた伊織は、笑みを取り繕った。
「おおきには、商売人が使うんやで」
「新しく知ることができてうれしいです」
「いやいやー」
涼は満更でもなさそうだ。ひとしきり頭を掻いている。
このやり取りは何だろう。
(お笑い系カップルになってしまうのは時間の問題では!)
菫子は、危機感を感じた。
「俺はボケと突っ込みの両方いけるから、オールOKやで」
頭の中身が覗かれたようで、どきっとした。
「……そこまでお見通しにならなくていいわよ」
心でつぶやいたつもりが口に出してしまった。
「考えてることを顔から想像して答えてみたら当たっとったか。くくっ」
「顔に全部出ててごめんなさいね」
「そんなことないで。分からんことだってあるし。菫子もやろ?」
「え、ええ」
「菫子は分かりやすいけどな」
「どっちよ」
「今日はゆっくりおやすみ……すみれ」
口の端をあげて悪戯な顔で、おどけてみせた彼に、菫子は笑いながら
「……おやすみなさい」
告げた。
離れていく姿にお互い手を振って、別れを惜しむ。
「……ふう。もう少しでバイクに乗せて連れて帰りそうやった」
涼が、去り際に呟いた独りごとを、菫子は耳聡く聞きつけていた。
よく通る声というのもある。
夕食を終えて、シャワーを浴びてベッドに入る時、
頭を過ったのは涼の顔で、幾度となく振り払っても現れる。
「ばか……」
独りごちて、瞳を閉じる。
文字通り怒涛のごとく3月は過ぎて、桜が咲き乱れる季節になった。
カレンダーで赤く丸をつけた涼の誕生日までもう少しだ。
4月某日、菫子は、純白の桜が咲き誇る並木道を歩いていた。
真っ白な桜が、光を浴びて何て美しい風景なのだろうと目を細める。
逆にいえば、散ってしまったら途端に寂しい風景に様変わりしてしまうということだ。
大学に行く前にここに来ようと思ったのは誘われたからだ。
桜がまだ咲いていない季節に、何度か来たことがある。
隣には伊織がいて、今より幸せそうに微笑んでいた。
ふわり、風が巻き起こり、花びらがいくつか散った。
まだ散り始めていないのに、風は簡単にひとひらを散らしてしまう。
ベンチには、長い黒髪を揺らす影が見えて、一歩近づくほどその存在を明らかにしていく。
とことこと、吸い寄せられるように近づく。
首を傾けて、空を見上げている伊織は、どこを見ているのだろう。
声をかけるのがためらわれるほど、景色と同化していて一枚の絵のようだった。
「伊織……」
「……菫子」
目を瞠り、菫子を見つめた伊織は、笑みを取り繕った。