Pleasure Treasure(プレジャ、トレジャ)

epilogue1 15-1「愛しい者の腕の中」(2)

「そこしか見てないの?」
「そんなことないで。グローブもパンツもよく似合ってる」
 かあっと熱くなる頬に手をあてる。
 じろじろと上から下まで眺めまわされ、たじろいだ。
「これでええと思うで。菫子はどうや? 」
「……うん、いい」
 頭に手が伸びてきたので、避けるようにカーテンを閉めた。
 今、髪の毛を乱されてもすぐに直せない。
 自分が、気に入ったかどうかよりも
 涼が気に入ってくれたので、すんなりと決めることができた。
 我ながら、どうしようもないと思う菫子である。
(最初に胸を見たのが、気になるけど、男の人って皆そうなのかしら)
 脳内では疑問符が飛び交っている。
 着替え終わり、元通りに商品を戻すとそれを胸に抱えて試着室を出た。
 すかさず、涼がそれを受け取りレジへと急ぐ。
 余裕のある姿が頼もしくて笑みを浮かべた。
 こっちを想ってくれている上での行動を実感して幸せを感じた。
 受け身ばかりでは駄目だからもどかしくても行動で返そう。
「……さ、帰ろ」
 店を出ながら涼を見上げた。
「涼ちゃん、あんな事故に遭(あ)ったのにバイクに乗るの怖くないの?」
「より一層安全に気をつければええ話やし。
 菫子もちゃんとしがみついとけよ」
「がっしりとくっついとくわ」
「どうせなら、安全ベルトでもお互いの腰に巻こうか」
「……うわっ」
 腕を取られ、涼の腰に回され固定される。
「……そんなことできないわよ」
「冗談なのに本気にした? 」
 自分からくっついてしまいそうな所で、いきなり腕を離されて呆然とする。
 にやけた顔がこちらを見下ろしていた。
 公衆の面前で何やってるんだろうと我に返る。
 幸い誰も自分達のことなんて見てはいないが。
(なんで、彼の冗談(じょうだん)を真に受けてしまうのかしら)
「菫子、明日は半年記念やな。何しよう。
 らぶらぶするのは決まってるとして、どんな風に演出するかやな」
 9月の半ばになっていた。
「一緒に過ごせればそれでいいの。ご飯作って食べて眠って
 朝の光で一緒に目覚められれば」
「かわええ! 」
 大声で叫ばれ、
「声大きすぎ! 」
 たしなめたが、逆効果で腕の中に閉じ込められた。
 ぎゅうっと抱きしめられ、紙袋が押しつぶされた。
 すっぽりと包まれ、背中に腕を回して応(こた)える。
「……暑いのに嫌じゃないなんて」
 変な感じだと思った。
涼おすすめの定食屋で遅めの昼食をとり、河川敷までバイクを飛ばした。
 川のそばまでいくと涼しげな風が吹き抜けて過ごしやすい。
 夏以降また草野球の試合を見に訪れる回数が増えている。
「おーい」
 菫子は、小学校高学年の少年二人に手を振った。
 駆け寄ってきた少年たちは涼がいるのにも拘わらず、菫子の隣に腰かけた。
 座ったまま涼は横にずれる形になる。
 じとりと目が据わっている様子は大変大人げない。
「菫子姉ちゃん、最近よく見に来てくれるよね」
「いつも思うけど、飛ばす野次(やじ)がすごいよな。打たせないように腕を壊してしまえとか!」
「本気なわけないでしょ」
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