Pleasure Treasure(プレジャ、トレジャ)

epilogue1 15-1「愛しい者の腕の中」(3)

「分かってるけど、熱が入っている様子がおかしくて」
「あっくん。おかしいって何なのよ」
「面白いの間違いだった。ごめん」
 けらけら笑う少年たちに菫子は口の端を曲げる。
「背ぇ比べしようよ」
 言い出したのは背が低い方の少年だった。
 彼は、あっくんより背が低く菫子と並んでも同じ位なのだ。
 手を引っ張られ立ち上がる。
 ぎろりと睨む視線に脅えたのはあっくんこと篤紀(あつき)だった。
「お、おい……健太(けんた)、やばいって、涼くんが」
 涼の視線にも篤紀の言葉にも気づかない健太と菫子は、並んで背を比べた後、
 背中合わせになりながら、計っていた。
「よっし、勝った。最近急に伸び始めたんだよな」
「踵を立てたりしてない?」
 じっと下を見ている菫子に健太はすっかり勝ち誇った様子で、
「だってこの前計ったら154センチだったもん」
「私だってヒールのついた靴履けば、160なんて余裕で越えるのに」
 菫子の悔し紛(まぎ)れの発言に、健太は苦笑した。
「それは、ずるだよ……」
 あっくんの突っ込みに、涼は肩を震わせた。
「ぶっ。どんぐりの背ぇ比べやんか」
 笑い転げる涼に、菫子と健太が顔を赤らめて地団太を踏んだ。
 そのタイミングが完璧に合っていたので涼は面白くなかった。
「涼くんなんてすぐに追い抜いてやるからな」
「できるもんならやってみぃ。ちびっ子」
 わざわざ神経を逆撫でる涼の神経が知れないと菫子は思う。
「……菫子ちゃん、これから試合だから行くよ」
 ぱたぱたと駆け去るあっくんに、
「がんばってねー」
 と菫子は、ぶんぶん手を振った。
「菫子姉ちゃん、しっかり応援してね。
 絶対勝つからさ!」
 真剣なまなざしに菫子は、微笑ましい気持ちで頷いた。
「健太、ヘマしたら駄目よ」
「分かってる」
 駆け出していく少年を眩しそうに見送り、菫子は頬杖をつく。
「……健太……菫子にくっつきまくりやったな」
「小学生相手に恥ずかしくないの」
「……小6やろうと、男は男や」
「可愛い弟みたいなものよ。あの子たちが小3のころから知ってるもの」
「……背比べ楽しそうやったな。俺らもやらへん」
「絶対に嫌」
「健太とは、したくせに」
「は? 明らかに身長差があるのにやったって意味ないじゃない。
 ほとんど変わらないから、意味あったのよ」
「……ほら立て」
 半ば強引に立たされ、背後に影が重なる。
 少しよろめいたが、手を握られて支えられた。
「涼ちゃんの方が半端じゃなく高いのは最初からでしょ」
「改めて、菫子のコンパクトさを実感して満足や」
 腕が腰のあたりに回り、すとんとそのまま座りこむ。
「……ちょっと。こんな所で」
「気にせんでええ。あの子らは弟みたいなもんやろ」
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