Pleasure Treasure(プレジャ、トレジャ)

番外「恋人」(2)

付き合いが半年過ぎた頃ふとした違和感に襲われる。
 涼との関係は、進展はおろか後退もしない。
 とくに危ない橋を渡りかけているわけでもないのだ。
 順調だけど平坦に日々を繰り返している。一番的確な表現だろう。
「ねえ、涼」
「ん?」
 ふわりと肩に凭れると頭を引き寄せられる。
 甘い感覚に体が疼くけれど、それだけ。何もない。 
 手のひらを掴んで指を絡ませればしっかりとした感触が返ってくる。
 そうしてようやく涼がここにいることを実感できるのだ。
 彼は私の欲しいものを知っていて、気付かない振り見ない振りをしている気がしてならない。
「好き」
「俺も好きやで」
 ふと目を瞠った後何もなかったように微笑んで涼は答える。
 ルージュの色が指に移るのも構わず彼は唇に触れてきた。
 瞳を閉じる。
 自然に交わすキス。私から深く口づけていると頭を優しく捕らえられる。
  涼は優しいし、本音で何でも言い合える。
 現状に不満はないはずだ……。
 一度きりの過ちに終わったことを思えば。
 プラトニックな恋愛というものも確かに存在するのだから、気にしない。
 別段気にすることはない。
 そればかり気にしたら欲望ばかり強い女みたいだし。
 もしかしたら、私が願えば彼と夜を過ごせるの?
 できない。
 自分から、求めるのはプライドが許さない。
 私が躊躇っている間に半年前に感じた違和感は膨らみ続けている。 
 これは何だろう。
 苛々(いらいら)が募り、ついに煙草に手を出した。
 涼は吸わないので、一人の時にひっそりと吸った。
 気づかれているのだろうが特にとがめられないことに不満を覚えた。
 煙草を口にしていると少しは苛々も解消され、気が紛れた。
 自分に言い聞かせているだけで、苦々しい気持ちからは脱け出せない。
 違和感の原因はあの娘だ。
 あの娘が、周りをうろちょろしなくなった頃から、
 涼は、どこか寂しい笑顔を浮べるようになった。
「浮気はしない誠実な男」
 涼の美点であり、最大の欠点でもあった。
 唇を噛んで、溜息をついた。


 涼と共に誘われた飲み会。
 ふと、私は試してみたくなった。
 涼に柚月菫子を誘うことを提案すると、少し怪訝な眼差しを送られたが
 別に否やはないようで、連絡してみると彼は言った。
 そこまで私と彼女は親しくないのに何故呼ぶのかと思ったらしい。 
 涼が可愛がってる子に会いたいだけだと告げると乾いた笑みが返ってくる。
 裏のない本心だった。
 当日、居酒屋に到着して数分後、彼女ー柚月菫子ーはやって来た。
 こちらを見つけた瞬間、目を大きく見開いた。
「久しぶり! 」
「お、菫子」
「菫子ちゃん、こんにちは」
 一瞬びくっとした彼女だがすぐに笑顔になる。

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