Pleasure Treasure(プレジャ、トレジャ)

番外「恋人」(3)

「こんにちは、薫さん」
 こちらに敵愾心などは抱いてないようだ。
 無邪気な表情はある意味微笑ましい。
 涼と私が一緒にいるのに割り込んでいる気がしたに違いない。
 目を泳がせて暫く逡巡している様子だったが、
 その場に残ることにしたらしい。
 誘われたわけだし離れると失礼になると考えたのと
 一人になるのは心細かったのだろう。
 見ているだけで手に取るように分かる。
「かちこちやで。リラックスせな」
「そうよ。カクテルでも頼んだら?」
「あ、あかんって。菫子はまだ未成年なんやから」
 菫子ちゃんは、口を尖らせていた。
「……うん。飲んじゃいけないわよね」
 曖昧に笑った
「ノンアルにしとき?」
「わかった」
 涼が笑いかけ、菫子ちゃんはノンアルのカクテルを注文した。
 早速、グラスを傾けて一口飲むと、
「そういえば涼ちゃんと薫さんは卒業したら結婚するの? 」
「ぶっ」
 大げさに反応した涼は口に含んだアルコールを吹き出した。
「しょうがないわね」
 ナプキンでテーブルを拭く。
 まさか本気で聞いてないだろうに取り乱しすぎだ。
「唐突ね」
「だって一年も付き合ってるんだよ。少しは意識したりしないのかなって」
 私と涼が順調に見えているだろう菫子ちゃんは大胆な発言をする。
「どうやろ。今が幸せならそれでええ」
 涼の言葉に瞳が翳る。ぱっと表情を変えたけれど。
「年月は関係ないんじゃないかな。したくなったらするんだろうし
 私も涼も先の事は考えられないから」
 さり気なく微笑んだ。
「そっか。変なこと聞いてごめんなさい」
「ううん全然」
「謝らんでええけど、菫子は時々爆弾発言かますよなあ」
 涼も二人も苦笑した。
 菫子ちゃんは顔を真っ赤にしている。
「美味しい」
 グラスを傾けて飲んでいる様子はとても愛らしい。
 涼の視線が一瞬菫子ちゃんを捉えて離れた。
 惑わされた類ではなく、傍から見れば兄が妹を心配する眼差しに感じられる。
 本当にそうなのだろうか。
 彼の行動に気づいていることを悟られぬように正面を見ていた。
「誘ってくれてありがとう。二人に会えてとってもうれしい」
 他意もなく言われ、動揺する。
「菫子が楽しんでるならええんやけど……、楽しんでるか? 」
「うん。楽しいよ。でも実は来るの止めようってさっきまで思ってた」
 気を取り直して来たことを評価してあげたい気分だ。
 来なかったりしたら、拍子抜けだもの。
 認めてるんだからね……菫子ちゃん。
「……トイレ行ってくる!」
 菫子ちゃんは、口元を押さえて立ち上がった。
 化粧室へと一目散に駆けていく。
 涼と顔を見合わせると、後を追った。
「冷たいもの取りすぎでお腹壊したんやろ」
 背後に聞こえた声は、苛立っていた。
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