Pleasure Treasure(プレジャ、トレジャ)

番外編「唐突過ぎる口づけ」(Treasure第一話前)





 唐突過ぎる接吻(くちづ)け 


 ひとしきり笑い転げる涼(りょう)ちゃんに、内心むっとした。
 そんなにおかしいのと言ってやりたくなる。
 距離が近すぎることに気づいた時には遅くて、腕を取られ掴まれていた。
「どうしたの?」
 息が苦しいほど抱きしめられて、腕の中で息をつく。
 このぬくもりが欲しかった。
 ずっと彼の側にいられることを夢見ていたから
 この腕から逃れられない。
 髪を撫でられて、唇が触れている。
 背中をたどる手のひらを感じ心臓が跳ねた。
 さすがに動揺して、声を荒げる。
「……りょ、涼ちゃん」
「ちょっとの間、こうしててもええ? 」
「確認が遅い……」
 事後承諾だなんて、分かりやすい確信犯だ。
 友達の距離を律儀に守ってきたから
 温かさを知ったら離れたくなくなる。
 危うい距離感に素知らぬふりをして身をゆだねる。
 もどかしい口調の言葉は抵抗も示せていない。
 芝生の上、涼ちゃんにしがみつく格好で座り込んだ。
 甘えているみたいだ。
 引き寄せられて、胸に抱かれる。
 顔が重なった。キスが落ちてくる。
 誘惑に抗いきれなかった。
 触れ合っているだけなのに次第に目元が潤(うる)む。
 唇が、しっとりと濡れてきていた。
 ようやく離れた後で、視線を上向ける。
 そのまま動けなくなった。
 彼を凝視(ぎょうし)してしまう。
 何も言葉が出てこない。
 嫌じゃなかったのだ。
 時期が来るまでは友達としての距離を保ちたい。
 固い決意がもろく崩れそうになる。
 状況に流されることを選んだ自分の浅ましさが情けない。
 結局、彼に導かれていくしかないのだろうか。
 息を吐き出して、強く涼ちゃんを見つめた。
「……か、帰る」
 ふらふら立ち上がって、背を向ける。
 頭の中がこんがらがっていて何も考えられない。
「おう、気ぃつけて帰るんやで」
 あっさりと、私を見送った涼ちゃんを振り返る。
 認めたくないのに罪悪感(ざいあくかん)がこみ上げた。
 唇を噛んで脱兎(だっと)のごとく駆けだす。
 ずるいのは、私だ。




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