Pleasure Treasure(プレジャ、トレジャ)

epilogueおまけ 「×××(キスキスキス)」(3/☆☆)

「ちょっ……」
 望んでいるのに抗ってしまうのは、好き勝手に
 振舞われることにストッパーをかけているということだ。
 なけなしのプライドと意地で、嫌がってみせる。
 腕に引っかかっているだけで着てないのと
 同じ状態の衣服に顔を真っ赤にしながら上目遣(うわめづか)いに睨んだ。
 いつもよりも強引な様子に一瞬怯むが、すぐにペースを取り戻す。
「寒い!」
「すぐ熱なるわ」
「ん……っ」
 再び濃厚な口づけ。
 腕を掴まれ身動きが取れない。
 涼は菫子をを見下ろしていた。
 視線が降りている場所は考えたくない。
 身長差の所為で、ちょうどいい位置に来るのではないかと思い至った。
「……りょ、涼ちゃんのえっち」
 敏感な場所に火が灯る。
 そこから全身へと広がる熱。
 自然と濡れてしまう声に、涼は満足そうに笑った。
「すみれも同罪やろ」
「な、なんで」
 ニヤリ。口の端を持ち上げる涼ちゃんを引き剥がそうと試みるが
 無気力の抵抗では、太刀打ちできない。
 嫌じゃないのだ。
 身も心も悦んでる。
 どんなに心地よい熱を与えてくれるか知ってるから。
 相手が欲しがってるのと同じで、
 自分も欲しがってるってこと見抜かれてるから
 いつだって翻弄されてしまう。
「悪いな。そんなとろんとした目されたら逆効果や」
 耳元で囁かれた涼の声は通常の100倍位甘く聞こえた。



「愛してる」
「俺も董子をめっちゃ愛してる」
 強い引力で引き寄せられて、背中に爪を立てる。
 確かにすぐ熱くなった。
 これはずっと醒めない熱だ。
 朝が来ても、この恋が続く限り。
「……馬鹿! 」
「うわ。いきなり何や。雰囲気ぶち壊しやな」
(何で私この人好きになったんだっけ)
 浸っていたのにいきなり現実に戻された。
「そんな所に顔をうずめて言う台詞じゃないでしょ!」
「男のサ・ガ」
 語尾に音符でもついてそうだ。
「開き直るの……っあ」
「菫子、自分の魅力に気づいてないんやな」
 顔から火を吹きそう。
 もうこれ以上反論する余裕はない。
「最高」
 耳元にささやきが降った後、キスを贈られる。
 きっとどんなお菓子よりも甘いキス。
 抱きついたらもっと強い力で抱き返されて、
 思わずうっとりしてしまう。
 温かすぎてどんな暖房もいらない。
 触れあえば、温もりを感じられる。
「嬉しそうな顔」
 涼が頬を軽く摘んできたので
 同じようにやり返す。
 お互い変な顔で笑い転げる。
 至近距離に大好きな人の顔が迫ってるのって
 とてもドキドキして、胸が高鳴る。
 視線も近く、吸い込まれていく感じだ。
 じっと瞬きせずに見ていたい。

「おっきな目」
 菫子は手を離したが、涼は未だこちらの頬を包み込んでいる。
 大きくて骨っぽい手で。
「そう? 」
「ああ。菫子の好きな部分の一つ」
「真面目な顔して言わないでよ」
「そっちこそ茶化さんで聞けや」
「だって、ドキドキするんだもん……心臓が壊れたらどうするの!」
 理由にもなってないのは重々承知だ。
「ぷっ……菫子はほんまかわいいなあ。今まで何回も壊れてるやろ」
 指先で頬をつつかれる。
 頬を膨らませるのって子供っぽいのに、
 何故かやってしまう。
「また壊れたら、ええやん。そん時は俺の心臓も壊れてるから」
 クサいけど、嫌いじゃなかった。
 嬉しくなって飛びつかんばかりの勢いで擦り寄った。
 髪を撫でる手が気持ちよくて、眠りが忍び寄ってくる。
「おやすみ。俺のすみれ」
 呪文のような言葉に、意識を手放した。



 すうすうと寝息が聞こえてくる。
 寝顔さえ笑みを刻んでる董子に、頬が緩む。
 すみれって呼ぶのは菫の漢字が含まれてるだけじゃなくて、
 隣に咲いていた小さな花だって意味があるって  いつか言ってやろうかな。
 知ってるか、菫はアスファルトの地面でも力強く咲くんや。
 董子はそんなけなげな強さを持っている。
 俺には本当は、もったいないくらいの女。
 移り香を感じて嬉しくなる。
 あまくて、董子の香りやって実感できるから。
 董子にも俺の香りが届いてるやろうけどな。
 一人で笑ってるなんて気味悪いかもしれへんけど。
 恋愛してると馬鹿になるやろ。
 これが普通やって。

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