Pleasure Treasure(プレジャ、トレジャ)

1、この静かなる夜に(4/☆)

「そんな……」
 陽気な彼は生真面目な一面も持っていた。
 喧嘩して実家に逃げ帰った時は、目の前が真っ暗になった。
 怒っていたけど不安だったからだ。
 素直になれず意地を張る私を包み込んで、
 くれた涼ちゃんは大人だ。
 四月生まれと三月生まれだならほぼ一歳、年齢が違うのもあるのだろうか。
 決して口に出せないけどいつも思っていることだ。
「ほんま、阿呆やったわ」
 笑みが刻まれる。
 口元をにっと歪めて彼は笑った。
「俺以外の誰が菫子を幸せにできるっちゅうねん」
「そうよ。私でなきゃ涼ちゃんを幸せにできないしね」
「気ぃ合うな」
「あったり前でしょ」
 がさごそ。彼はコートのポケットを探っている。
 コートのポケットの中から青い箱を取り出し、
 彼はテーブルの上でそれを開けた。
 銀色に輝く指輪。
 何故、プラチナが婚約指輪として選ばれるのか私も知っていた。
「柚月菫子さん、俺と結婚して下さい」
「はい、喜んで」
 指先に彼の手が触れて、指輪を嵌めてゆく。
 じんわりと目頭が熱くなって、涙が零れる。
 涙が後から後から頬を伝う。笑顔で泣くなんてきっと生まれて始めて。
 この日が来るのを待っていたの。
 イヴだなんて思いもしなかったけれど。
 
 一ヶ月ぶりに共に過ごした夜は甘く尊く頬を涙が伝った。
 永遠を約束したからか愛しさがこみ上げるばかりで、
 何度も名前を呼びあったし、内に彼を感じた。
 大きな身体にくっついて眠り優しい朝を迎えた。 
「菫子っ」
「きゃあ」
 ばさっとシーツごと涼ちゃんが覆い被さってくる。
 ぎゅって抱きすくめられて腕の中に閉じ込められた。
「重いんだけど!」
「気持ちの重さってことでええやん」
 むちゃくちゃなことを平気な顔で言うの。
 真面目かと思いきや性分は結構ふざけてる。
「ああ言えばこう言うんだから」
 朝の光が白い。
 外には雪が降っていた。私たちの幸せを祝福するかのように。
「眩しいね」
 目を細める。陽の光よりじゃなくて視界にあるのは涼ちゃん。
「ああ」
 彼も私を見ていた。眩しそうに目を細めて。
「「愛してる」」
 言葉は二人同時に重なり、唇同士も重ねた。
 私たちは雪解けの日を待つ。
 静かなる夜を越えて、真っ白な朝を過ごし
永遠を刻む日を迎える。


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