バンパイア君は私に甘々でメロメロ

11

午前中の会議を終え、すみれが少し疲れた様子でデスクに戻ろうとしたときだった。
「椎名さん、お疲れさま」
やわらかな声が背中から聞こえた。

振り向くと、そこには早瀬祐(はやせ たすく)が立っていた。
スラリとした長身に、整った顔立ち。
優しげな笑顔と柔らかな物腰で、社内女子の人気を独り占めしている“癒し系王子”。

すみれも、ずっと密かに憧れていた。
仕事もできて、性格も穏やかで、誰にも分け隔てなく優しい。

そんな早瀬が、すみれをじっと見つめている。

「……顔色、あまり良くないみたいだけど、大丈夫?」

「えっ……あ、はい、大丈夫です! ちょっと寝不足なだけで……」

慌てて笑ってごまかすと、早瀬はすっと眉を寄せた。

「無理しないでくださいね。最近残業続いてるみたいだから」

「……ありがとうございます」

思わず顔が熱くなる。
優しさが自然体すぎて、ドキドキしてしまう。

すみれがぽーっとしていると、さらに早瀬が言う。

「よかったら、お昼、付き合ってくれませんか? 少し気分転換になるかなって」

「えっ……」

驚いて目を見開くと、早瀬はいつもの穏やかな笑みを崩さずにいた。

「よかったら、話聞くよ」

そのときだった。

「……すみません、椎名先輩。今日の昼、資料の確認お願いしてたと思うんですけど」

横から黒川がひょっこり顔を出した。
顔は無表情気味だけど、目だけがほんのり険しい。

「あ、そうだった……?」

すみれが慌てて言うと、黒川は静かに言葉を重ねる。

「昼休みに打ち合わせしようって椎名先輩が言いましたよね?」

(言ってない!!)

すみれは心の中でツッコんだが、黒川の様子から察して言葉を飲み込んだ。

早瀬は気まずそうに笑った。

「そっか。それならまたの機会にしようか。……無理せず、ね」

「……はい」

優しく微笑む早瀬と、隣で無言の圧を放つ黒川。
昼前のオフィスに、奇妙な空気が流れた――。
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