「おまえほどの男、殺すには惜しい」と父に言われた敵国の王子の妻になりました
上質な外套に身を包み、堂々とした足取りで、ゼインとシシリアのもとへ向かう。

「僕ですよ。彼女を連れて来たのは。」

その声に、私は息を呑んだ。

見覚えのある顔。整った輪郭に、どこか冷ややかな笑み。

「ガゼル……!」

若くして王に重用され、今やこの国の書記官として勢いを増す男。

彼が――あの女神のようなシシリアを?

「おまえか、シシリアを買ったのは……!」

ゼインが怒りに燃え、拳を振り上げたその瞬間――

「嫌だな。彼女が、俺に付いてきたんですよ?」

その言葉が放たれた瞬間だった。

ゼインは、まるで雷に打たれたかのように、顔を歪めた。

そして次の瞬間、ガゼルの胸元を強く掴み上げていた。

「シシリアは……俺と結婚の約束をしていた! 愛し合っていたんだ!」

広間に、ゼインの怒声が響き渡る。

あまりに痛切なその声に、私の胸も激しく脈打った。
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